株式会社フェズ 伊丹順平

Guest Profile

伊丹順平(いたみ・じゅんぺい)

1985年生まれ。2009年東京理科大学工学部卒業後、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパンに入社。営業担当として大手流通会社を担当。12年グーグル合同会社に入社。消費財メーカーや小売流通業界へのデジタルマーケティングの企画立案や広告営業、またオムニチャネル戦略に従事。“消費そして地域を元気にする”という想いから、15年12月に株式会社フェズを創業し、現職。

特集“消費活性化のプラットフォーマー”として 新たな消費経済圏を創出、 “消費そして地域を元気にする” リテイルテック

1.“ついで買い”を 促す手法で小売店での 消費を増やす

地方創生の決め手がいまひとつ見えてこない。観光庁は日本版DMO(観光地域づくりを担う法人)の全国展開による観光需要創出をめざし、厚生労働省は地域包括ケアシステム構築を通して医療・介護を中心に据えた街づくりをめざしている。それぞれに一定の効果は期待できるが、創生にまで至るかどうか。
 このテーマに、小売店振興を軸にアプローチしているのがフェズである。地方の衰退は小売店の衰退から始まるのが通例で、小売店が衰退すれば消費者の生活導線が変化し、飲食店や生活関連サービス店も衰退してゆく。「小売店での消費を増やすことで地方を元気にしたい」。そう抱負を述べる社長の伊丹順平は、消費者と小売店が参加するプラットフォームを構築し、地域住民による消費拡大という持続性のある浮揚策を指向している。
 スーパーやドラッグストアでの購買行動が顕著に示すように、小売店の売り上げには“ついで買い”とも呼ばれる非計画購買の拡大が大きなウエイトを占めている。非計画購買が7割前後を占めるという統計もあるほどだ。膨大な消費データを自社のプラットフォーム上で統合し、分析したうえで、フェズは店内のサイネージやウェブ広告で来店客の情緒に訴求し、非計画購買を促す手法を開発中で、1年をかけてプロダクト・マーケット・フィットの実証実験をスーパーやドラッグストアなど約20店舗で進めている。

2.消費財メーカー、 小売店、IT 3つの現場に知悉

「誰が何を買ったかなど消費行動のデータを収集・分析して、小売店がより地域に根差すためのマーケティングに活かせるプラットフォームを開発している。たとえばオムツを買わなくなった人は次に子供の教育費にお金を使うようになるなどのデータである。既存の広告と消費行動は連動していないので、我々は消費行動を可視化するテストを進めている」
 フェズが「リテイルテック」と呼ぶこの事業は、はた目にはシンプルにも見えるが、フェズのコア・コンピタンスが事業の裏付けになっている。
 コア・コンピタンスは伊丹のキャリアに由来する。大学を卒業してP&Gに入社。大手流通企業を担当し、3年後に転職したグーグルでは、小売企業や消費財メーカー向けにデジタルマーケティング導入を展開した。消費財メーカー、小売店、IT企業――3つの現場に知悉していることが、IT業界やコンサルティング業界のプロパーとの大きな違いだ。
 伊丹は「弊社と同じ取り組みを行なっている会社は、我々が把握している限り存在しない」と明言。何が参入障壁になっているのか。
「小売企業とメーカーの商談方法や背景を理解していないと、リテイルテックのビジネスはできない。予算をマーケティング費用から出してもらうなら、交渉相手はメーカーのマーケティング担当者だが、売り場への提案に関する相手はメーカーの営業担当者である。ネット広告と連動させて商品の陳列場所を交渉する相手は、小売企業の商品担当者である。誰がどんな役割を担い、どのように価格が決定されるのかを全て理解しておく必要があるが、そう簡単に理解はできない」
 さらにフェズではさまざまなメーカーのマーケティング担当者を招いて、何を考え、何を欲しているのか、フェズは何を提供できるのかについて、定期的にディスカッションを進めている。

3.把握・行動・改善の サイクルの高速回転が 社員の成長を育む

フェズの設立は2015年。3期目に入ったばかりだが、売上高約20億円で黒字を計上し、3年後の株式上場に向けて準備に入った。売上高の90%は広告代理事業とオンラインメディア事業だが、リテイルテックの比率がどんどん上がる見込みである。
 取引先は大手消費財メーカー、およびネット通販企業をメインに約50社。成長の原動力は「ビジネススキルの優れた仲間が多いこと」(伊丹)。
 従業員にはPDCAサイクルをアレンジした「把握・行動・改善のサイクル」の高速回転を求めている。
「このサイクルを精度高く高速で回すことが、自分が描く将来像に向かって成長するために大事であることを教えている。回せば回すだけフローが改善され、精度が上がっていく」
 全員が出席する毎週の「朝会」で伊丹が直々に指導し、一人ひとりに成果を上げさせている。伊丹もこのサイクルを高速回転させ、「自分の成長が会社の成長につながっているかを確認している」。
 従業員を期待水準まで成長させるには、このサイクルの高速回転もさることながら、まずもって資質が問われてくる。フェズの採用では新卒も中途も伊丹が最終面接を行ない、3つの資質を基準に採否を判断している。成長意欲が強いか。論理的思考力が優れているか。性格が素直か。応募者が一定の理論武装をしてきても、伊丹は、具体的な出来事を細かく質問を重ねて、応募者の武装を解きながら素顔を明らかにしていく。なかでも重視しているのは素直さだ。
「会社に入れば理不尽な事態にもたびたび直面するが、できない理由を並べ立てるタイプでは成長できない。つねに前向きに取り組まないと成長できないが、そのためには素直であることが必要だ」
 社長の行動が社員のベンチマーク対象になる企業は成長力が際立つが、フェズは格好の事例だ。“消費活性化のプラットフォーマー”として地歩を固めれば、新たな消費経済圏が創出されるのではないか。

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