株式会社FiNC 溝口 勇児

Guest Profile

溝口 勇児(みぞぐち・ゆうじ)

高校在学中の17歳からトレーナーとして活動を始め、予防・ヘルスケア・ウェルネス分野での経験、知見を蓄積し、2012 年4月に株式会社FiNC を設立、代表取締役社長に就任した溝口勇児氏。 この17年6月からは、日本電気株式会社(NEC)とAI(人工知能)を活用した、ウェルネス・ソリューションの共同開発をスタートさせる。 IT×ヘルスケア×予防医学の領域でイノベーションを、起こし続けてきた同社の今後の取組みについて聞いた。

特集無料でパーソナルなサービスを。 ヘルスケアのプラットフォーム確立に 本気で挑む

1.【編集長インタビュー】(聞き手:本誌編集長 松室 哲生)

――御社はスマートフォンなどのITを活用し、予防医学の分野で新しいサービスを提供し注目されています。この領域に着目されたのはなぜですか。
<溝口>
 私は高校生の17歳の時からトレーナーとして活動しており、予防・ヘルスケア・ウェルネスの、この分野に関しては多くのことを学んできました。そこで強く感じたのが、お客様一人ひとりに本当に合ったサービスを届けたいということです。
 従来の一般的なジムはある程度マニュアル化、標準化されていて、お客様一人ひとりのパーソナライズとはかい離しています。富裕層向けのジムでも、ある程度確立したメソッドをもとに提供していて、良い悪いというよりは、合う方もいれば、そうでない方も出てきます。私はそのどちらでもなく、本当にパーソナライズしたサービスを提供したいと思っています。
 ただ、こうしたサービスはビジネスとして展開するのは非常に難しく、その改善に向けた取り組みをいまも行なっています。

――ビジネスを展開するのが 難しいというのはどういうことですか。
<溝口>
 そもそもフィットネスやトレーナーによる対面のサービスには4つの課題があります。
 まず、時間と場所の制約です。お客様は決められた時間に決められた場所に行かなければ、サービスを受けられません。
 2つ目は、データの収集と活用が非常に難しいことです。カルテをもとにサービスを届けるわけですが、カルテを書くのも大変ですし、カルテの情報が増えていくと、トレーナーが過去のデータをさかのぼって把握することも難しいです。
 3つ目は、そうしたデータをもとに一人ひとりに最適なサービスを届けられる熟練した指導者はまだ数が少ないことです。そのため需給ギャップが生じてしまいます。私も最初は1回5000円ほどでトレーナーをしていましたが、利用者が増えるにつれ、最終的には2万円くらいに増えました。そうするとお客様は富裕層の方が多くなります。
 課題の4つ目は、そのような金銭的制約です。富裕層だけを対象にしたビジネスでは大きな広がりは望めません。

――なるほど。4つの課題解消のめどはいかがですか。
<溝口>
 AI(人工知能)やテクノロジーを駆使しオンライン化すれば解決できると考え、創業時から投資をしてきました。栄養士やトレーナーなどヘルスケアの専門家がマンツーマンでサポートするシステムです。
 実際、先の4つのうち3つは大幅に改善されました。
 オンラインなので時間と場所の制約はほぼ解消されます。利用者の各種データはクラウドに蓄積されるので、データの収集と活用が容易になります。また、非対面のサービスなので優秀な指導者の指導を簡単に受けられます。さらに、指導者が100点満点で70点の知見しかなくても、残りの30点をテクノロジーで補うことができるので、多くの指導者が確保できます。
 ただ、パーソナライズされた精度の高いサービスを提供するには、金銭的な制約はまだ少々残っています。所得に関係なく誰もが健康という土台を手に入れられる社会にしたいというのが私たちの願いです。

――AIへの投資は金額も大きいと思います。勇気がありますよね。怖くありませんか。
<溝口>
 確かに怖い面もありますが、私たちは多くの人の期待を背負っていますので使命感があります。そして、そのゴールに対して本気で取り組んでいます。
 これは私の母の教えですが、「勇気とは恐れを抱かないことではなく、恐れを抱いても行動する度胸があること」だと。小学生の時にそう言われて以来、私はずっとこの哲学で今日まで過ごしています。

――組織といえば、御社は共同代表制で3人の代表取締役がいます。そのほかの役員や幹部も多士済々ですね。みなさん個性があり、マネジメントがたいへんなのではないですか。
<溝口>
 よい組織とは、私は手のようだといつも言っています。手のひらは会社の理念や行動指針で、組織全体が共有すべきものです。それ以外の指は、太い指、長い指、細い指、短い指があるように個性があってよい。そういう組織が理想だと思っています。
 我われのようにクリエイティビティーを求められる組織は、ダイバーシティーやインクルージョンがすごく大事になります。実際、当社は現在約170人の社員がいますが、ダイバーシティーに富んでいます。年代は20代から60代まで、社長経験者は約20人おり、20ヵ国近い国籍の人が働いている。こういう組織をマネジメントするのは少し難しさも感じますが、みんな個性が豊かで本当に頼れるメンバーです。

――どうやってマネジメントされているのですか。
<溝口>
 大切なのは価値観を合せようとするのではなく、わかり合うことです。相手のストレス、笑顔、喜びの判断がどこにあるのかをお互いに知ろうとすること、理解し合おうとすることが大切です。我われはそれをコンパッションといっていますが、相手のことを推し量る、そういう会社にしようと社員には口を酸っぱくして言っています。そのベースがあれば多様性を受容できる組織、カルチャーにできるのではないかと思っています。

――御社の3〜5年後のイメージを教えてください。
<溝口>
 3年後は、ヘルスケアのプラットフォームといえばFiNCという地位を日本で確立し、5年後にはそれを世界で確立したいと考えています。

――非常に可能性を秘めた、夢のあるお話ですね。本日はありがとうございました。

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