株式会社喜代村 木村 清

Guest Profile

木村 清(きむら・きよし)

1952年生まれ。68年から約6年間、航空自衛隊に入隊。74年から現マルハニチロの子会社で、すしネタ・弁当・食品などの開発に携わり、79年木村商店を27歳で創業、その後90以上の業種・業態を経験する。2001年築地場外に日本初の年中無休・24時間営業の寿司店「すしざんまい本店」を開店。築地場外の再活性化に貢献する。18年には京都、仙台にも新規出店、全57店舗となった。

特集ウチだけ儲かればいいという考えはない。

1.寿司業界、さらには日本全体を元気にしたい

1月5日のマグロ初競りでの落札金額が、毎年、新年の話題として取り上げられるすしチェーン
「すしざんまい」。同チェーンを運営する喜代村は、すしざんまいを展開するかたわら、築地場の活性化、
世界的な寿司ブームづくり、水産資源を増やしながら漁獲するノウハウの確立、寿司業界の人材育成、
政府が進める観光立国のサポートなど、幅広い活動を行なっている。これからの喜代村の関心はどこに向かっているのか、
同社代表取締役社長・木村清氏に、本誌編集人・松室哲生が聞いた。

2.――2018年5月に「すしざんまい」の新店舗を京都に初出店されました。事業は好調のようですね。

(木村) 京都に続き、7月には仙台に出店します。ただ、出店ペースはあえて抑えています。あまりムリせずに年5~6店舗ずつ増やしていく計画です。現在の店舗数は仙台を含めて57店で、100店舗を超えるのは10年後くらいになるのではないかと思います。

3.――01年に築地場外に本店を構えて以来、全店で24時間・365日営業を続けておられます。4年前のインタビューでは1日の客の回転数は23・5回転というお話でした。この数字はいまも維持されているのですか。

(木村) 維持しています。そのためにメニューを常に新しくしており、独自の仕入ルートの開拓や流通、衛生管理などのシステムも改善を続けています。お客さんに魅力ある店だと思ってもらうために努力しています。

4.――好調なすしざんまいですが、海外展開をするお考えはありますか。

(木村) いまのところ考えていません。外国の方にはやはり日本に来て食べてもらいたいからです。現在インバウンドブームで17年の訪日外国人は前年比19・3%増の約2869万人と、5年連続で過去最高を更新しました。多くの人が本場日本の寿司を楽しんでいます。
 そもそもすしざんまいを始めたのも、衰退する築地市場を活気づけたいという思いからでした。築地を盛り上げ、日本経済を再生させ、世界に寿司ブームを起こそうと。いまは世界的な寿司ブームですが、そのブームをつくったのは、すしざんまいだと自負しています。

5.――インバウンド需要は少なくとも20年の東京五輪までは続く見通しです。

(木村) 訪日外国人数は東京五輪以降も増えると思います。20年には4000万人を超え、観光庁は30年には6000万人という目標を掲げています。
 私も国が進める観光立国の実現に向けた取り組みのお手伝いをしています。現在、日本旅行業協会と全国旅行業協会の事業に関わっています。
 また、安倍晋三首相が力を入れる外交にも協力し、アフリカや中南米などでマグロ外交を行ないました。現在はロシアとの国交に関わっており、今年(18年)5月にロシアを訪問し、メドベージェフ首相にもマグロを食べていただきました。当社もロシア企業との合弁会社をウラジオストクに設立、魚市場を建設する計画を進めています。年内に工事を開始し、来年(19年)完成する予定です。

6.――水産業では世界中で事業展開されているのですね。マグロをはじめ世界的に魚の需要が増えていますからね。

(木村) それもありますが、重要なのは海の資源を保護しながら、近代的な付加価値の高い漁法を行なっていることです。ですから世界中から呼ばれているのです。
 マグロの「備蓄」も北太平洋、南太平洋、米国などで行なっていますが、いままで誰もやっていませんでした。それをウチがやり出し、いまでは主流になっている。マグロ資源を増やしながら漁獲するという新しいノウハウを当社がつくりあげました。

7.――すしざんまいも水産業も好調で、会社は安泰ですね。

(木村) まだまだですよ。安泰と思ってはいけません。心配なのはお客さんが満足してくれているかどうかです。それは常に売上げが伸びているかどうかでわかります。売上げが伸びていなければ、お客さんが満足していないということです。雨が降ったとか、風が強いとか、景気が悪いとか、そんなことは理由になりません。そうした中でも一生懸命工夫をして努力して、お客さんを満足させれば売上げは必ず増えます。常日頃からそういう気持ちを持って仕事をすることが重要です。

8.――それには優秀な人材の確保が大事になりますね。空前の売り手市場で、人材集めもたいへんなのではないですか。

(木村) 人材がいなかったら育てる。その気迫が大事です。従業員は現在約1600人います。モチベーションを高めるために、全従業員を集めて業績発表を年2回行なっています。そこで優秀な人を表彰しています。
 また、全国の漁業組合でも人材育成をしています。たとえば沖縄では、以前は組合員が25人ほどで平均年齢も67歳でしたが、いまは組合員137人、平均年齢31歳です。青森の津軽海峡でも大間のマグロブームで若手が増えています。

9.――業績の拡大に伴い、上場のお考えはありませんか。

木村 上場の必要はないです。当社は無借金経営で、福利厚生も充実しています。株主に配当するくらいなら、従業員にボーナスを多く出したほうがましです。

10.――06年に立ち上げられた寿司職人養成のための「喜代村塾」はいかがですか。

(木村) いまも続いています。一人前の寿司職人になるには最低10年かかりますが、10年修業が勤まるのは10人に一人がせいぜいです。このままでは寿司文化は廃れてしまいます。そうした危機感から喜代村塾を始めたわけですが、塾で2年間集中的に技術を学び、卒業後はウチの店に入る者もいれば、実家の寿司屋を継ぐ者など道はさまざまです。ウチだけ儲かればいいという考えはありません。寿司業界全体が盛り上がり、さらには日本全体を元気にしていきたいと思っています。

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