株式会社さくら事務所 大西倫加

Guest Profile

大西倫加(おおにし・のりか)

広告・マーケティング会社などを経て、2004年さくら事務所参画。広報室を立ち上げ、マーケティングPR全般を担う。11年取締役社長に就任し、経営企画を担当。13年1月に代表取締役就任。NPO法人日本ホームインスペクターズ協会理事。女子限定神社めぐり交流会「神楽女会」も主宰。

特集女性の採用・教育、変化に強い組織づくり……。 建築業界に新風を吹き込む

1.中古住宅等の、劣化、改修、費用はなどのアドバイスサービス

 ホームインスペクション(住宅診断)とは建物の専門家が第三者的立場から新築住宅に欠陥がないかをチェックしたり、中古住宅であれば、どれくらい劣化しているか、どのような改修をすればよいか、費用はどのくらいかなどのアドバイスをするサービスのことだ。近年ホームインスペクションへの認知度が高まり、利用する消費者が増えている。

2.20年、30年続く組織に創業者からのバトンを受ける

 その普及の推進役となってきたのがさくら事務所である。ホームインスペクションのシェアで業界トップであり、依頼件数も前年比2割程度のペースで伸びている。

 現在、同社社長を務める大西倫加さんは2013年に創業者の長嶋修氏(現在は会長)から社長の職を引き継いだ。

「創業時は、強い求心力を持った創業者が会社を引っ張っていくことが大切です。しかし、長い目で見たときには、経営者の個性に頼らずに現場に権限を持たせるなどの仕組みを作ることが、企業の成長と継続には必要です」

 とくに不動産は20年、30年と長期間利用するものだ。いくらサービス内容が顧客から支持されるものであっても、企業そのものが短命に終わってしまっては、利用者に迷惑をかけるだけになる。

「当社では社会的な使命として、豊かで美しい社会を次世代に手渡すことをうたっています。10数年、事業活動を続けてきて、これからは創業者個人(長嶋氏)が目立つというより、組織として永続的な仕組みを作っていこうということで、私にバトンが渡されました」

 04年にマーケティングおよびPR担当として同社に参画した大西さん。その後それまで少なかった女性社員の採用や育成についても任されるようになっていった。

「私の入社前までは女性社員は少なく、給料も男女格差があるなど、組織的に未完成の部分がありました。ホームインスペクションを行なう建築士は社員ではなくパートナーという形態なのですが、その9割が男性。本社社員も男性が多数で、知らず知らずのうちに男性ばかりの職場になっていました」

 それで女性社員を徐々に増やし、現在は社員半数が女性になった。

「当社には五方良し(ごほうよし)――依頼者も自分も、会社や業界、社会全体のすべてが良くなるような仕事をしようという理念があります。この考え方をきちんと理解してくれる人の採用を重視しました。また、その当時から、チームのあり方や組織作りなどもっとあるべき姿に近づけるようガンガン役員に意見を言ってきました」

 大西さんは建築業界の出身ではない。そのため、当初は風当たりがかなりきつかったという。しかし、ぶれることのない言動に加え、創業者長嶋氏のサポートもあり、大西さんの考える組織作りに賛同するメンバーが増えていった。

3.品質マネジメントの国際規格「ISO9001」を取得

 さくら事務所では14年9月に国際規格「ISO9001: 2008」の認証を取得している。これは「サービスの品質保証と顧客満足および改善を含む組織の管理まで踏み込んだ品質マネジメントシステムの要求事項を規定した」国際規格だ。規格取得にあたっては組織体制や運営方法、取り組みを細かく審査され、厳しい基準に合致した企業だけがこの規格を取得できる。同社では情報共有のために社内クラウドを活用しているが、建築業界にあっては、これだけITを使いこなしている中小企業は珍しい。ISO取得の際にはこの点も評価されたという。

 消費税増税が先送りになり、駆け込み需要減によるホームインスペクションニーズの減少も懸念されるが、今後はどういう展開を予定しているのか。

「新規事業として海外不動産投資事業を始めました。フィリピンのセブ島のコンドミニアムホテルに投資する事業です」

 なぜセブ島なのか。日本の住宅が本当の資産になっていないという問題が根底にあるからだという。不動産が本当に資産になるためには需給のバランスが合っていることが必要だが、少子高齢化の進むいまの日本では圧倒的に供給過剰になっている。たとえば資産運用先としてアパートを作りたい人は多いが、作っても入居する若い人がいない。それなら、そうした投資を必要としているところを見つければよい。

「それで若い人が多く、成長性や地の利など諸条件がすべて合致するセブ島を選んだのです」

 不動産業界は参入障壁が低く、売上げを作りやすいため、参入する企業は後を絶たない。しかし、それだけに経済環境が変化し、資金の需給バランスが崩れると、あっけなく散っていく企業も多い。

「だからこそ、変化、進化を繰り返していかないと先はないと思っています。それを生み出すのが、社長であり役員の役目だと思っています」

 常に変化を生み出す側になりたいと語る大西さん。これからも建築業界に新風を吹き込んでいくに違いない。

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