シリコンスタジオ株式会社 寺田 健彦

Guest Profile

寺田 健彦(てらだ・たけひこ)

業 種 ● 3D映像技術の開発・提供、ゲームソフトの開発等 設 立 ● 1999年11月(創業) 資本金 ● 1億円 従業員数 ●231名(2014年12月現在) 所在地 ● 東京都渋谷区恵比寿1-21-3 NRビル 電 話 ● 03-5488-7070 URL ● http://www.siliconstudio.co.jp/

特集自社開発リアルタイム3DCG技術を武器に北米ゲーム市場の席巻を目指す

1.

  2015年2月23日にシリコンスタジオが東証マザーズに新規上場した。初値は公募価格(4900円)の約2倍、9900円をつけ、上場初日は1万1400円のストップ高で取引きを終えた。その後も年初来高値を更新するなど順調な滑り出しを見せている。

2.開発推進・支援、コンテンツ、人材派遣の3つの事業が柱

 同社は、3D画像処理で有名な米国Silicon Graphics Inc.の日本法人、日本SGIから独立する形で1999年に設立され、2000年に営業を開始した。

 事業の柱は大きく分けて3つある。1つ目がゲーム業界や映像業界に向けて、最先端のリアルタイム3DCG技術をパッケージ化したミドルウェア製品を開発する「開発推進・支援事業」だ。ミドルウェアとはOSとアプリケーションの中間に位置するソフトウェアのことで、ゲーム会社にとってゲーム開発時の高品質化、コストダウンやスピードアップに欠かせないものだ。

 加えてオンラインゲーム用ネットワークインフラの構築やサーバーなどの運用、ゲームメーカーからゲームの受託開発も手掛ける。

 事業の柱の2つ目がスマートフォン(以下、スマホ)ゲームを個人向けに開発・販売する「コンテンツ事業」。「三国志カードバトル」や、全世界で764万ダウンロード(14年11月時点)突破のRPGタイトル「逆襲のファンタジカ」が有名だ。

 3つ目の柱がクリエイティブ業界に特化した人材派遣や人材紹介を行なう「人材事業」だ。開発推進・支援事業やコンテンツ事業での経験を活かし、独自のノウハウとコネクションによるサービスを展開している。

3.海外からの注目度もアップ『Mizuchi』『YEBIS』

 開発のスピードが問われ、競争も激しいゲーム関連業界において、会社設立から十数年にわたり実績を積み上げ、上場できるまでに事業を拡大できた一番のポイントは何なのだろうか。

「ゲームや映像で、ほかと差別化できるほど実写に近いリアルな3Dの画像を出すには高度な数学の知識が必要になりますが、われわれには長年それを研究・開発してきたという強みがあります。

 ゲームのプラットフォームとして主流になりつつあるスマホやタブレットだと、いち早く市場に出すのが一番の優先順位なんですね。しかし、その分野でもよりリアルで高度な技術が必要な3Dにシフトしつつあります。われわれは最先端の技術を持った技術者集団ですから、そうした市場の要望にも、すべて社内でスピーディに対応できるのです」と寺田健彦社長は語る。

 ゲーム業界を支援するミドルウェア開発やゲーム用ネットワーク構築、運用やゲーム開発などのBtoBと個人向けゲームの開発のBtoCとの比重はどのくらいなのだろうか。

「売上構成比はほぼ同じくらいで、バランスがとれています。BtoBとBtoCの両面だけでなく、毎月の運用にかかるサービスと、サービス提供時の収益というストック型とフロー型の収益の両面があり、偏らない収益構造も強みですね」(寺田社長)

 今後はどういった戦略を考えているのか。

「海外展開、とくに北米を視野に積極的に進めていく予定です。これまで国内のミドルウェアはあまり海外に輸出されてこなかった。海外市場は日本の3倍以上もあり、ゲーム・ディベロッパーズ・カンファレンス(GDC)などへの出展を足がかりにしたいと考えています。GDCに出品するミドルウェア、『Mizuchi』『YEBIS』『Paradox』を紹介するトレーラームービーをサイトに掲載したところ、国内よりも海外の方からのアクセスが多い。確実に海外からの注目度は上がっています。日本発の技術を世界に広め、日本のゲーム業界を元気にしたい」

4.“Start With WHY”を文化にさらなる成長ステージへ

 ミドルウェアの採用はゲーム業界だけにはとどまらないという。

「ゲーム業界で培ってきた最先端の3D映像技術は、映画やテレビ業界からもすでに引き合いがきています。たとえば高度な光学表現が可能になる『YEBIS』は、アメリカの映像製作会社ピクサーにも採用されているんですよ。

 われわれのミドルウェアを使えば実写に近い緻密な3Dの映像を作れるので、これからは建築や自動車のデザインプレビューなど、採用する業界が増えるのではないでしょうか。

 また、今後はスマホアプリの宣伝支援事業も展開していきます。広告を最も効果のある出稿先に出せるように最適化するアドテクノロジーを駆使して、国内・海外でのプロモーション支援を行なっていく計画です」

 経営が軌道に乗り、上場を実現したいま、次なる企業ステージに進むために必要になるのが会社の文化だ。それを明確に伝えていくことで、会社が必要とする優秀な人材が集まりやすくなり、顧客に対するアピールポイントにもなる。

「米国企業が母体だったせいか、社内の雰囲気はとても自由で上下関係もあまりない。だからいままでは企業文化というものを強く意識してこなかったのですが、これからは会社の文化を作るフェーズにあると思っています。今後はサイモン・シネック(*)の言葉、『Start with WHY』を浸透させていきたいですね。一人ひとり、最初に理由を考えてから動こう、顧客が何を求めているのかをしっかり理解して動く、ということです」

 米国の風土から生まれ日本で大きく育ちつつあるシリコンスタジオ。同社が米国全土を席巻する日もそう遠くはない。

(注)
*米国のコンサルタント。リーダーや企業、非営利組織に対して「人々をインスパイアする方法」を伝授してきた。著書に『WHYから始めよ!―インスパイア型リーダーはここが違う』(日本経済新聞出版社)がある。

TO PAGE TOP