株式会社アドバンスト・メディア 鈴木清幸

Guest Profile

鈴木清幸(すずき・きよゆき)

(すずき・きよゆき) 1952年生まれ。京都大学大学院工学研究科化学工学専攻博士課程中退。78年、東洋エンジニアリング入社。インテリジェントテクノロジーへ転職後、米国カーネギーグループ主催の知識工学エンジニア養成プログラム(KECP)を修了。97年にアドバンスト・メディアを設立。2005年に東証マザーズ上場。10年に代表取締役会長兼社長に就任。

特集「スリー・ステップス・リープ」で中長期計画を作成”GAP”で実現する

1.「スリー・ステップス・リープ」で中長期計画を作成”GAP”で実現する

いまや当たり前となった「音声認識」の開発に、20年以上も前から取り組んできた企業がある。
アドバンスト・メディアは、世界でどこもマネできない最高峰の音声認識技術を強みに市場を開拓、
現在、国内シェア№1を誇る。「我々のビジネスはGAFA(グーグル(Google)、アップル(Apple)、
フェースブック(Facebook)、アマゾン(Amazon))にも勝てる」と豪語する
鈴木清幸会長に、今後の成長戦略を本誌編集人・松室哲生が聞いた。

2.――最近は業績が好調で、音声認識技術が日本のみならず世界にも普及している感があります。そのあたりを概観して、どのように認識されていますか。

鈴木 音声認識の時代が来たことに、ある種の感慨はあります。創業して22年目になりますが、当時は音声認識の市場はかけらもありませんでした。いまは世界最高の音声認識技術を開発して「コンタクトセンター」「医療」「議事録・書き起こし」「製造・物流・流通」「営業支援・業務報告・対面支援」「建設・不動産」「インバウンド」の7つの市場を開拓しています。
 最初に開拓したのは医療です。MRIやCTの画像を読む専門家がいて、分析レポートを書かなければなりません。この画像は電子化されたレポートとともに数年間保存するのが世界的なルールです。そこに私たちの音声認識で市場を開拓し、電子カルテにも導入してきました。

3.――他の市場ではどんな普及状況でしょうか。

鈴木 コールセンターでは「言った」「言わない」を確認するために会話を録音していますが、問題のあるところはオーディオ検索機能がないと探せません。ところが、われわれの「Ami Voiceビジュアライザー」を使えば会話が文字化されるので文字検索で問題会話を発見できます。また、ある大手通販会社の例ですが、1人のスーパーバイザーが20人のオペレーターを担当し、オペレーターが手を挙げた順序で支援に駆けつけていました。しかし成約率向上に結びつくとは限りません。私たちの「AmiVoiceアシスト」を使えば、20人の会話が全て文字で見えてきます。

4.――読めば、どこが危ないかが分かるわけですね。GAFAは目じゃないと?

鈴木 さらに、AI(人工知能)を使ってNGワードやNG表現などに反応し色で表示するので、緊急度や優先度を認知することができます。どのオペレーターを支援に行くべきかを自分で決定でき、これで成約率がかなり上がりました。個々の企業に特化した音声認識AIです。汎用型であるGAFAの音声認識では、このレベルまでの対応はできません。

5.――7つのマーケットのうち、今後伸びそうな分野はどこですか。

鈴木 私たちは既存コアビジネスのさらなる成長を「BSR(超音声認識)1」、「新規ビジネスの創生・M&A・海外事業」を「BSR2」として、2つの成長エンジンを駆動することで7つのマーケットを創生してきました。従来の音声認識ビジネスのやり方を変えた超音声認識(BSR: Beyond Speech Recognition)ビジネスでマーケットを創ったとも言えるのです。BSRとは伸びそうな分野を探すことに加えて当社独特のBSR戦略を展開することを意味しています。今後は7つのマーケットをBSRで格段に伸ばすことはもちろんですが、BSR2の目的である新たなビジネスの追加と海外事業・リージョン(地域)の拡大が顕在化していくと思います。例えば、2018年には中国の大手家電メーカー・美的集団のコールセンターの全1500席にAmiVoice統合ソリューションを入れました。私たちのAI音声認識と音声認識AIで創れそうな市場は多々あるように思えます。しかしながら市場創りを牽引するアプリケーションやサービスを創っても人々に使っていただかなければ市場化の未来は来ないのです。

6.――音声認識では、発明した未来に人々を連れて行ったわけですよね。

鈴木 その通りです。人々を連れて行くには明確なビジョンが必要です。私たちのビジョンは、人とキカイ(AI)が自然なコミュニケーションを行なえる「HCI(ヒューマン・コミュニケーション・インテグレーション)の実現」です。最後の“I”がインターフェースというモノではなく、インテグレーション(融合)というコト(状態)であることが重要です。モノはすぐに創れますが、状態を創るのには時間がかかります。まさに未来を創るわけです。私たちのビジョンが意味することは、「蛇口をひねれば美味しい水が飲めるように、AmiVoiceを社会環境や家庭環境に融合し、いつでも、どこでも、だれでもがその恩恵を受けられる未来に人々を連れて行く」ということです。

7.―今後の成長戦略を教えていただけますか?3年ごとの業績目標を出されていますよね。

鈴木 私たちは成長のための「課題の発見、課題克服の仮説づくり、検証」の繰り返しで小さな成長の階段を上ってきました。その過程で見つけ出した仮説に「スリー・ステップス・リープ」(“3つのステップで飛躍できる”)と言うものがあります。これで中長期計画を作っています。3年間あれば売上げを2倍にできるということで、一昨年の売上高25億円に対して、昨年、今年、来年の3カ年で2倍の売上高(50億円)、さらに次の3年間で2倍の売上高(100億円)、その次の3年間で2倍(200億円)というペースで伸ばし、3回目の最終年度に営業利益率30%を達成させる計画を発表しています。現在は最初の3カ年の2年目が終わろうとしているところで、1年目は想定通りにビヨンド・ゴールできました。
 1年目と2年目の実績を踏まえて3年目に2倍というリープを実現させるわけですが、その成功のための重要な手段のひとつが“GAP(Goal-driving Actions with Perseverance)”です。ゴールが駆動する俊敏な動き“俊動”と失敗を認知し、すぐに次の手を打って、それをやり続ける“耐動”を意味しています。

8.――商品の現状や問題点を「問題児」「花形」「金の成る木」「負け犬」の4つの象限に分類するというビジネススクールの手法も踏まえたうえで、別次元の発想が必要なのかなという気がします。

鈴木 その通りです。ビジネススクールはピーター・ドラッカーの世界ですね。これはPDCAを“マネジメント”で回すという考え方ですが、私は別の方法でより高速に回し、“ビヨンド・ゴール”を実証しようとしています。MBAの手法と違って、もっと合時代的です。MBAの手法では、時代が変わると、プロが経営しても巨額の粉飾を出したりしています。もうピーター・ドラッカーは時代遅れです(笑)。

9.――本日はありがとうございました。

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