スマートソーシャル株式会社 酒井 禎雄

Guest Profile

酒井 禎雄(さかい・さだお)

1968年新潟県生まれ。長岡工業高等専門学校機械工学科卒業。89年4月、株式会社リクルート(現:株式会社リクルートホールディングス)入社。オリコン株式会社、株式会社サイバードを経て、2011年3月にスマートソーシャル株式会社を設立、代表取締役に就任。

特集マーケティングのできる開発会社 ワンストップサービスを実現する

1. 【エイベックス子会社から受託】自社の最大の強みを発見

これまでになかった企業ではないだろうか。

「当社の顧問からは“マーケティングのできる開発会社”と言われている」

スマートソーシャル社長の酒井禎雄は自社をそう語る。

SIerである同社の事業は、主にITエンジニアやWEBデザイナーの派遣、WEBシステムとスマートフォンアプリの受託開発、WEBマーケティングと、「人」「開発」「マーケティング」のワンストップサービスを提供している。確かにワンストップサービスを謳っている会社も、人材の派遣、開発からマーケティング、アフターフォローまで提供している企業はまずない。開発だけとか、あるいは営業だけに偏重している会社も数多い。

エイベックス・ミュージック・クリエィティヴのプラットフォーム開発を受託した時だった。

「なぜ、うちが選ばれたのか」と尋ねた酒井に、同社の開発責任者は打ち明けた。

「WEBサイトやアプリの開発、SEO対策などをやってもらいながら、エンジニアが足りなければ派遣してもらい、さらにマーティングまで相談できる会社は他になかった」

まさにワンストップサービスが理由だった。しかも、同社には顧客の真の課題を発掘して、解決できる社員が揃っている。エンジニアと営業担当者、プランナーなどがそろって顧客に出向き、それぞれの立場から顧客の混乱や問題を解決していく。

この現状を目の当たりにしているうちに、酒井の認識は変わっていった。

「これまでは、1300社のWEB開発会社と1万2000名のエンジニアとのネットワークを抱えていることがうちの強みだと考えていた。しかし、真の強みはワンストップサービスにあるのではないか。1人、もしくは数名の社員でワンストップのサービスを提供できれば、話は早い。混乱はなく、無駄なく顧客の問題を解決できる。しかも、無駄なコストは発生しない。これがうちの強みだ」

2.ワンストップサービスを提供できる理由

なぜ同社はワンストップサービスを提供できるのか。そして、なぜ、同社の社員は、1人でさえ、ワンストップサービスが提供できるのだろうか。最大の秘訣は「人が好きな社員を採用していること」と酒井は述べる。

「派遣、開発、マーケティングとワンストップサービスを提供するには、それらに関わる人をつなぐ能力が重要で、その最大の能力は『人柄』。しかも人柄はお金では買えない。能力よりも、人間が好きであることを優先して採用している。WEB開発会社と登録エンジニアも同様の方針で進めている」

顧客開拓は、酒井が17年勤務したリクルート社と、同社顧問の出身母体である大手通信会社の人的ネットワークの活用により、各業界の大手企業200社以上との取引が実現した。酒井は「このネットワークも当社の強みである」と受け止めている。

顧客との直取引によって、WEB開発会社や登録エンジニアは、顧客との間に同社が介在するだけの「エンド直」で仕事ができる。〝直〟であるだけに高い報酬を得られ、顧客とのやりとりに齟齬が発生せず、エンジニアの思いも仕事に反映させやすい。無用なストレスに悩まずに済むのである。

酒井の経営観は「世の中に新しい価値をどんどん提案していくことが私の生きがいであり、生き様である。その提案が必要とされれば会社も個人も生きていける」。振り返れば酒井が同社を設立したのは東日本大震災(2011年3月11日)の3日前で、先行きが全く見通せなかった。

だが、スマホのアプリ開発が急拡大している時期だったため、エンジニア不足に悩む企業が多く、開発とマーケティングという提案をスタートさせた。「厳しい状況だったが、人生を賭して」起業したのだった。

3.社員の雇用は「よそ様の子どもを預かる」こと

今後の課題のひとつは、酒井と顧問のネットワークに頼らない営業力を確立することである。

酒井は「営業担当者が能力を発揮できる環境を整えなければならない。教育メソッドの確立も必要だ」と模索している。

「社員は皆一生懸命働いているので報いたい。報いることとは、ガムシャラな仕事の進め方に対して適切な方法を教えて、成長させること。そうすれば、その社員は部下や後輩に対しても、同じように育ててくれるはず。その循環をつくりたい」

酒井は現在48歳。年齢を重ねるうちに、社員に対して、これまでとは違う心情が芽生えたという。

「50歳を前にする年齢になり、社内には、親子ほど年齢の離れた社員もいる。実際、私の娘が今年(17年)4月に社会人になることもあって、思うところがある。それは、社員の雇用は『よそ様の子どもを預かる』ということ。会社には、たとえ会社が存在しなくなっても社員が食べていけるように、一人前の社会人に育ててあげる責務がある。身に染みてそう思うようになった」

この考えが経営幹部に共有され、中堅幹部にも浸透すれば、強固な求心力が醸成されるだろう。酒井の思いは、企業経営への本質的な問いかけでもある。

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