TOMAコンサルタンツグループ 藤間秋男

Guest Profile

藤間 秋男(とうま・あきお)

1952年東京都出身。慶應義塾大学商学部卒業。大手監査法人勤務を経て、82年藤間公認会計事務所を開設。2012年に持ち株会社を設立した。公認会計士、税理士、中小企業診断士、行政書士などの国家資格を持つ。主な著書に『どんな危機にも打ち勝つ100年企業の法則』(PHP研究所刊)など。

特集「100年企業の法則」をワンストップで提供する

1.『明るく・元気・前向き』に全従業員が共感する

 〈もし担当者が「明るく・元気」にしていなかったら、顧問料を一ヵ月分返金させていただきます〉。

 TOMAコンサルタンツグループ(以下、TOMA)は約1000社の顧問先との契約書にこのメッセージを盛り込んでいる。返金された例は1件も発生していないが、顧問先に対しても自社の担当者に対しても、いかにも積極果敢なメッセージだ。

 TOMAはコンサルティング会社や税理士法人、社会保険労務士法人、監査法人など10法人で構成され、スタッフ170人のうち大半が国家資格保有者である。

「お客様の見本になる経営」を目指している同社の経営理念は、「『明るく・元気・前向き』なTOMAコンサルタンツグループは本物の一流専門家集団として社員・家族とお客様と共に成長・発展し共に幸せになり共に地球に貢献します」。その実践に返金を宣言してまで取り組んでいるのだ。

 創業は1890年(明治23年)、グループ理事長・藤間秋男の曽祖父が司法代書人を始めたことにさかのぼる。この事業は現在、藤間の父・松男氏が四代目として引き継ぎ、82年に藤間が大手監査法人勤務を経て藤間公認会計事務所を開設。2012年にホールディングカンパニーを設立した。

 この間、経営理念は必要に応じて改定され、現行の理念は6回目の改定で策定された。経営理念は従業員に共感される内容でなければ意味がなく、修正すべき点があれば修正すべきである。そう考える藤間は「どの会計士にも負けない(笑)」と自負する『明るく・元気・前向き』を加えたのだ。

 実際、「コンチハ!」と大きな声で応接室に現れた藤間は、終始豊かな表情でエネルギッシュに語り、尋常ならざる熱量を放出し続けた。

2.3つのコア・コンピタンスが顧問先の黒字化を促進する

『明るく・元気・前向き』はTOMAが保有する3つのコア・コンピタンスの一つだという。

 二番目のコア・コンピタンスは、税務会計、経営計画策定、人事制度作成、企業再生、M&A、海外進出支援、IT化指導などあらゆる経営課題へのワンストップのサービス体制を整えていること。

 そして三番目は、顧客の見本になる経営を実践していること。TOMAの担当者が顧客企業で課題の解決法を質問された場合、あえて理屈を話す必要はない。どんな質問に対しても「TOMAではこう取り組んでいる」と自社を事例に説明しているのだ。

 これらのコア・コンピタンスに期待をかけて、毎年100~150社がTOMAと新規の顧問契約を結んでいる。だが裏を返せば、それだけ他の会計事務所が力不足なのではないか。

 藤間は同業の会計事務所への疑問を投げかける。

「顧問先に経営理念や経営計画書の策定を指示しておきながら、自分の事務所では実行していないところが多い。決算を処理するだけとか、試算表の提出が3ヵ月も遅れるとか、情けない事務所が実に多い。だから毎年、多くの企業が顧問契約をうちに切り替えてくる」

 TOMAの業務成果は顧問先の収支に現れている。国税庁の「平成24事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要」によると、黒字申告割合は27・4%。これに対して同社の顧問先約1000社のうち、黒字企業は70%に及んでいる。

 顧問契約は通常、税務会計処理から入るが、「顧問先の経営課題に対して、解決策をお節介なほど提案するのが当社の方針」と藤間は述べる。指導の基本方針は「100年企業づくり」で、藤間は100年存続する企業の法則を次のように抽出した。

 ①明るく元気前向きに、負けない気持ちを持つこと(業績が悪いのはリーダーの責任)②打つ手は無限(諦めたら打つ手は出てこない)(しぶとい経営)③「働きがいのある会社」づくり④社員と共有する経営理念を作成・改善⑤100年企業になるための、成長し続ける仕組みづくり⑥顧客を分析し、未来客を獲得する⑦目標達成を具体化するための経営会議を行なう⑧人事制度を整備し、評価をもとに社員の成長を促す⑨財務・税務に強くなり、お金の動きを把握する⑩会社の将来を決める行動計画のある経営計画の策定。

3.人を育て、人に任せ次世代へタスキを渡す

 TOMAが老舗企業の社長たちを招いて開いた「100企業サミット」で、参加した社長たちの見解は示唆にあふれていたという。

 収益拡大を重視する発言はなかった。彼らが重視しているのは、良い商品、良いブランド、良い人材、良い社風に磨いて次の代に会社を渡すことだった。

 125年の歴史を継承する藤間は「経営はタスキがけのリレーと同じで、そのためには人を育てなければならず、育てるには任せなければならない」と説く。

 この経営観から、高齢になっても社長の座に固執し続ける人物には、顧問契約破棄を承知で怒鳴りつけることもあるという。「私にとって大事なのは御社の社員の幸せであって、あなたの意地ではない!」と。

 次世代へのタスキ渡しを誤れば社員が不幸になる。社員の幸せを口にする経営者はゴマンといるが、それが口先だけかどうかは、顧問先の裏の裏まで知り尽くしている会計事務所ならすべて見抜いているのだ。

 世のため人のため、社員の幸せ、お客様の幸せに尽くし、そして最後に自分の幸せ――経営者が本当にそう思っているのか。その真摯な心がTOMAのスタッフを突き動かすのだ。

 藤間は顧問先にこう望んでいる。
「うちをどんどんこき使ってほしい。こき使っている顧問先は業績が伸びている。会計事務所は顧問先の味方で、たとえば銀行に資金繰りの悪化を率直に相談すれば退かれてしまうかもしれないが、会計事務所なら味方になって相談に乗ってくれる」

 顧問先を100年企業に育て上げるTOMAは、1000年企業を目指す。現在61歳の藤間は55歳のとき、65歳での社長退任を社内に宣言した。これもまた顧問先に対する世代交代の見本である。

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