株式会社ティーケーピー 河野貴輝

Guest Profile

河野 貴輝(かわの・たかてる)

1972年、大分県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、伊藤忠商事株式会社為替証券部入社。日本オンライン証券(現・カブドットコム証券)、イーバンク銀行(現・楽天銀行)の立ち上げプロジェクトに参画し、ITと金融の融合事業を手がける。イーバンク銀行で取締役営業本部長等を歴任した後、2005年8月、株式会社ティーケーピーを創業。11年、TKPガーデンシティ品川(旧ホテルパシフィック東京1F宴会場)の運営を開始。ニューヨーク、上海にも進出を果す。現在、全国1,288室、93,438席(2014年3月現在)を運営する業界のリーディングカンパニーである。

特集日本発のビジネスで海外戦略が立てられるこれだけの理由

1.海外進出を同時に行なうことで、理想の成長戦略が可能になる

この7月に、シンガポールとニューヨークにカンファレンスセンターをオープンすることができました。ともにその国の経済都市の中心部に拠点を設け、利便性の良さとリーズナブルな価格での提供をすることで、需要の開拓をしていきます。
 オープン間もないにもかかわらず、すでにニューヨークのカンファレンスセンターは9月、10月に国際的に有名な米国企業から受注をいただいており、好調な滑り出しとなっています。近隣にはヒルトンやマリオット、ハイアットと、国際的に名の通ったホテルもあり、それらのホテルでは、企業主催のパーティーなどでの利用が盛んです。この法人利用客を日本発のビジネスモデルで取り込めれば、大きな成果を挙げられるのではないかと思っています。また、アジア進出をさらに強化する一環として、香港での2号店を展開する準備に入っています。
 これら出店計画は日本でのビジネスが飽和状態と考えて、海外へというのではありません。むしろ逆で、国内展開は昨年より積極的に行なっており、特に既存のホテル内宴会場型ガーデンシティに次いで、オフィスビル型のガーデンシティの展開に力を入れています。
 オフィスビル型のガーデンシティは、TKPのソフト面の充実としてこだわりを持つ音響、映像、照明、空調への投資を惜しまずにすること、さらには内装にもコストをかけることで総合的な質を高め、ホテルより割安な価格で提供することを目的としています。ホテル品質で満足度の高い会合需要を創造するための新しい形態の提案です。 
 この背景には国内の経済が回復してきた実感があり、特に日本の製造業の復活を顕著に感じているからです。現に2014年4月のガーデンシティ、カンファレンスセンター、ビジネスセンターの予約はすでに企業の新入社員研修などでソールドアウト状態にあります。
 日本経済復活の兆しがあるこの時期に、海外進出を同時に行なうことで、理想の成長戦略が可能になると考え、アジアを中心とした海外出店を加速させています。

2.人口動態を無視しては今後の成長戦略は立てられない

 TKPは現在の売上高100億円から10年後には1000億円企業に成長することを目標として掲げています。TKPが得意とするスペースのシェアリングマーケットの大きさは、国内で1兆円規模があると考えています。これは潜在的な需要を含めた数値で、これからわれわれがマーケットを創造していかなければならないという意味も含んでいます。
 貸会議室利用や企業研修需要だけで、1兆円があっても不思議はないと考えます。しかもこれらは100万人都市が中心となって生み出したマーケット規模です。つまりこの視点に立てば、100万人都市にこれらの潜在的需要があり、それらのエリアで需要を顕在化すればいいことになります。
 この発想をアジアに置き換えてみると、100万人都市は日本では11都市ですが、アジアにはまだまだたくさんあることに気づきます。地球儀で日本の国土のサイズをそのままアジアにかざしてみると、ほぼバンコク(約820万人、タイ)から、ジャカルタ(約950万人、インドネシア)までをカバーできます。シンガポールなら東京23区と同じ国土の大きさに550万人います。つまり航空路で日本を縦断する3時間から5時間のエリア内に、アジアにも人口の多い都市はたくさんあるというわけです。
 TKPが想定する需要マーケットは企業利用が中心ですから、企業が多く集まる地域を意識しなければなりません。それは労働人口が減少している日本だけに固執していては、大きな成長戦略を立てられないということを意味しているのです。人口動態は経済を動かす要ですから、人が集まるところへこちらが出向いていくのは当然のことです。TKPは人口100万人規模の仙台エリアでも成功を収めたことで、それよりも大きな人口を持つ経済都市へと出向けば、さらなる成長を見込めると思っています。

3.顧客便益を落とさず、他社より割安感を感じさせる差別化戦略

 ここで、果たして日本で培ったレンタルスペースビジネスは海外でも通用するのかという疑問が沸いてくるかと思います。TKPはいいものをリーズナブルに提供することをスローガンとして掲げていますが、まだ国際的ブランドへと育っていないTKPが海外で成功する確率は、ブランディングに成功している企業と比較すれば、当然低いと考えられます。
 しかしながら、いいものをリーズナブルに提供することで、知名度が低くても成功している例はたくさんあります。たとえば、ひと昔前のユニクロですね。しっかりとした着心地を、おしゃれ感覚と合わせてリーズナブルな価格で消費者に提供することで、海外でも支持を得ることに成功しています。さらに歴史をさかのぼれば、トヨタをはじめとする自動車メーカーが欧米車よりもいいものをリーズナブルに提供することで、海外進出に弾みをつけたわけです。エイチ・アイ・エスもそうでしょう。
 これらはいずれも大手が構築した既存の価格より割安感があり、それでいて顧客に不便さを感じさせずに利益を出すことができれば、ビジネスは成立するという証しです。
 消費行動には海外でも日本でも共通点が多くあります。割安に済ませられることは少しでも安く、お金をかけるときは、それなりに贅沢も楽しむという意識が当然働きます。企業ニーズも同じで、お金をかけたいときには、ブランドある高級ホテルを利用してもらえばいいわけです。TKPは「割安で済ませたい」というニーズをしっかり取り込み、有名ホテルのスペースを使わずに、会議や研修などをリーズナブルなコストで実施するというモデルづくりを海外でも目指すわけです。
 それは世界的企業が集まるニューヨークでも同じです。企業が営利目的で行動する限り、すべてのシーンで一流ホテルを利用しなければならないという理由はありません。現に国際的有名企業がTKPニューヨークに予約を入れていることがそれを物語っています。
 いいものをリーズナブルに提供する考え方で、新しいニーズを創造してみる。そして利用者に便益のある付加価値をつけて割安に提供する。このビジネスモデルの考え方は、同じようなサービス内容なら、価格が安い方へ流れるという人間の心理が関わる重要なブルー・オーシャン戦略であり、しかも万国共通なのです。

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