株式会社日本M&Aセンター 分林 保弘

Guest Profile

分林 保弘(わけばやし・やすひろ)

1943年生まれ。立命館大学経営学部卒。日本オリベッティ入社、同社会計事務所担当マネージャーを経て、91年日本M&Aセンター設立、翌年代表取締役社長に就任。「会計事務所」「地域金融機関」「商工会議所」等の情報をマッチングするプラットホームの概念を提唱し、中小企業M&Aの社会的意義を理念として確立。2006年10月に東証マザーズ上場、翌年には東証一部上場を果たす。日本における中堅中小企業のM&Aの第一人者として活躍中。10年より東京商工会議所議員も務める。

特集M&Aのプラットフォームとして事業モデルを構築20期連続黒字経営を続ける超優良成長企業

1.中小のM&Aを全国規模で仲介できる数少ない企業

 日本M&Aセンター(東証1部・証券コード2127)は、中小企業のM&A仲介を手掛ける。設立は1991年4月。15年後の2006年10月に東証マザーズに上場、わずか14ヵ月後には東証1部に市場変更を果たしている。
 12年3月期の売上高は約60億円、経常利益約28億円。5期前と比較すると、売上高、経常利益はともに約2倍の成長を遂げている。さらに創業以来2期目より出資額に対して10%の配当を継続して10年間で出資額を実質的に返済するなど、創業当初より株主還元も忘れない。同社の躍進の秘密はどこにあるのだろう。
 大きな要因として、まず「M&A市場の拡大」が挙げられる。日本の生産年齢人口は今後40年で約4割も減少する。このため消費も約40%落ち込むことが想定される。このマーケット縮小を前に、大企業は事業再編や海外進出に活路を見出しているが、中小企業にとってはなかなか高いハードルだ。
 一方で現役社長の平均年齢は60歳に達しようとしているなか、企業の65・9%に後継者がいないという深刻な問題がある。経営者が債務を個人保証している中小企業が大多数であることを考えれば、事業承継の手段としてM&Aを活用する例が増えるのは自然だ。
 しかし、日本には中小企業のM&Aに関する専門的なノウハウと、全国マッチングの機能を持つ企業がほとんどない。日本M&Aセンターがほとんど唯一と言える。

2.中小企業の総合戦略コンサルタントだからこその強み

 同社の社会的役割について、株式会社日本M&Aセンターの創業者であり、代表取締役会長の分林保弘氏は次のように説明する。
「当社を設立した目的は、中小企業のM&Aにおけるプラットホームを作りたいとの思いからでした」
 分林氏は昭和40年代から会計事務所の担当マネジャーをするなかで、いずれ中小企業の承継問題が深刻化することを予測し、M&Aの社会的意義を提唱してきた。
「当然ながら、当社が全国の中小企業のM&Aを実現できるわけではありません。会計事務所・地域金融機関・商工会議所などからの情報が集まる仕組みを作って、全国の中小企業存続のお手伝いをさせていただきたいということなんです」
 その言の通り、同社の提携先には、全国371の会計事務所、96行の地方銀行、178の信用金庫、さらには証券会社、ベンチャーキャピタル、コンサルティング会社など、中小企業と接点のあるあらゆる組織・団体・企業が名を連ねている。
 日本M&Aセンターがこれらのネットワークのコアとして機能することにより、広く全国で相手探しができるため、より顧客満足度の高いM&Aが実現できる。「競合」ではなく「協業」の関係が構築できているわけだ。
「当社は世間的にはM&Aの仲介業と認識されていますが、自分たちのなかでは中小企業の総合戦略コンサルタントだと思っています。M&Aは会社を存続させ、発展させてゆくための手段。会社を譲渡される経営者とその家族、従業員、譲り受ける側の企業と、双方それぞれを支えている金融機関等々、誰もが良かったと言える結果が出て初めて〝成功〟です」

3.自利利他の精神で件数よりも実りを重視

 M&Aは、売却する側/譲り受ける側、それぞれに関わるすべての人たちとその家族にとって、非常に大きな決断となる。「契約が成立すれば成功」というわけではなく、後に企業がどのように発展できるかが大切なのは言うまでもない。同社はいわば仲人のような立場で、企業や経営者と関わり続ける担当社員の役割は大きい。
 ともすれば、効率や件数が優先されがちなところだが、常に〝実り〟を最重視してきたことが、同社の安定成長の裏付けともなっている。この方針が貫けた理由は「経営理念」と「人材教育」であると、分林氏は胸を張る。
「私たちが創業以来、大切にしてきた経営理念は自利利他の精神です。最澄の言葉で、私は若い時分にTKC創業者の飯塚毅会長に教えていただきました。自分が利益を得ようと思えば、まず周囲の方々の利益のために尽くせ ということです」
 同社に相談にくる経営者は、会社存続や事業承継など、切実な思いを抱えている。担当者が相手の立場をとことん理解し尽くし、全幅の信頼を受けなければ成果は出ない。法律や会計の知識を有するのは最低限であり、人間としての魅力・コミュニケーション能力も求められる。
「そのような人材は待っているだけでは来てくれませんし、こちらから積極的に採用活動をしています。入社後も人員から人材になってもらうための教育制度に力を入れています。特にM&Aを担当する社員は、全員が当社社員でありながらそれぞれが独立した経営者としての感覚を養うように日々アドバイスしています」
 中小企業のM&A時代はまさにこれからが本番だ。日本M&Aセンターが担う社会的な役割と企業としての成長余地は、これからもどんどん大きくなるだろう。

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