株式会社ベルーナ 安野 清

Guest Profile

安野 清(やすの・きよし)

1944年埼玉県生まれ。68年9月、創業。77年に友華堂(現ベルーナ)設立、代表取締役社長に就任。83年より衣料品の通信販売を開始。以後、商品や事業の拡大、販路の多角化を図り、現在は顧客データベースを活用した『通販総合商社』としてさらなる進化をとげている。11年3月期売上高は1034億円。11年12月、経団連入会。

特集「国内ワイン通販売上げ4年連続1位への足跡」

1.何が同社の競争力をそこまで高めたのだろうか

 ベルーナのワイン通販売上高は2011年度に27億3000万円を記録した。東京商工リサーチの調査によると、11年度の国内ワイン通販売上高ランキングで、ベルーナは4年連続の1位となった。2位の売上高が16億800万円だから、頭ひとつ飛びぬけていると言える。何が同社の競争力をそこまで高めたのだろうか。

2.売れる味求め、1日に50本をテイスティング

 ベルーナがワイン通販を始めたのは1999年である。当時、国内ではワインブームが沸き起こっていた。すでに食品の通販を手がけていたベルーナは、新たな商品分野としてワインの取り扱いに着手したのだ。カタログの印刷コスト、物流コストなどの優位性を背景に、同社では立ち上げ当初から手頃な価格のワインを提供することが可能だった。
 全国紙の新聞折込チラシを使ってワインの通販広告を打ったところ、とくに地方でのレスポンスが高かった。クレジットカードの会員誌への広告掲載など富裕層向けの告知も強化した。売上げはとんとん拍子に拡大していった。佐久間樹・グルメ事業本部本部長は当時を振り返る。
「そのころはまだ、地方ではワインの流通ルートが整っていなかった。美味しいワインを飲みたくても、思うように購入できず、がまんをしていた消費者が多かったのではないか。そこに的中したのだと思う」
 しかし、そこからがベルーナの本当の挑戦だった。
 国内仕入れを、原産国からの直接仕入れに転換し、よりリーズナブルな価格で安定的に提供できる体制づくりを目指した。わずか3年でほぼ100%、直接仕入れに切り替えることに成功する。仕入先は3つのルートから開拓を試みた。第一に、フランスやイタリアで開かれる展示会での開拓。第二に、フランス系を含む銀行からの紹介。第三に、フランス大使館からの紹介である。現在の仕入先は30~40社で、輸入本数は年間約350万本、取扱銘柄数は年間3000~4000に及ぶ。取扱い銘柄の大半が日本ではベルーナのみの取り扱いとなっている。
 ワインに限らず、食品の通販の場合、その味や雰囲気をどう顧客に伝えるかで売上げが違ってくる。同社では、ワインのテイスティングとカタログ掲載のコメント作成は、ソムリエの碩本修二氏に依頼している。碩本氏は日本のワインレストランの草分け「ミスター・スタンプ・ワインガーデン」のオーナー。第一級の専門家自らが、ベルーナのワインの品質チェックと味の表現を手がけているのだ。もちろん社内でのテイスティングにも怠りはない。月5~6回のペースで実施し、多いときには1日に50本をテイスティングする。
「美味しい味と売れる味が一致するとは限らない」
 渡久地政理・グルメ事業本部海外事業部課長代理はそう指摘し、同社におけるテイスティングのポイントを説明する。
「当社の顧客は濃い味を好む傾向にあるので、まず、それに合うワインかどうかをチェックする。過去に売れ行きの良かったワインに近い味かどうかがポイントだ。常に部内全員でテイスティングを行ない、その場を通じてベルーナのワインとして提供できる味を共有している」

3.カタログのデザインを毎号変えて訴求効果を検証

 味に自信のあるワインほど、温度や湿度の変化に敏感で、直射日光を嫌う。だからベルーナのワインは遮光された専用倉庫で大切に保管されている。高級ワインの室温は12℃、それ以外は15℃に管理して、湿度は70~80%をきっちり保つ。30℃を超える6~8月には冷蔵便を利用して顧客に届けるなど、ありのままのベルーナのワインを味わってもらうために、とことん気を配る。
 一方、1年コースの頒布会方式を採用するなど販売方法でも他社との差別化を図る。たとえば、ボルドーやローヌ、ランクドック・ルーションなどの銘醸地からメダル受賞ワインを選り抜いて3本セットにし、月々3980円で毎月届けていく。月々4980円のボルドーワイン6本セットでは、年間72銘柄のワインを堪能できる。
 衣料品の通販事業で蓄積されたノウハウは、購入実績のある顧客に送付するカタログづくりにも活かされている。ワイン専門カタログ『My Wine CLUB』は99年のワイン事業開始とともに創刊され、現在年4回発行されているが、ワインボトルの掲載サイズ、季節に応じたイメージカラーの使い方などにも同社ならではの知恵と工夫が凝縮されているのだ。佐久間本部長は「どういう要因で売れるのか、事業部全員で仮説と検証を繰り返し、訴求効果の最大化に取り組んでいる」と強調する。さらに、セットごと、単品ごとに、前年実績と対比させ、キャッチフレーズや見せ方、価格などにも改善を加えていく。特集の記事作りもワインの専門誌なみの充実ぶりで、毎号飽きさせないカタログは、リピーター獲得の有力なツールとしてもしっかり機能させている。たとえば、イタリアやフランスの銘醸地情報やワインの歴史などの記事は、ワイン通の知的欲求を満足させる中身の濃さだ。「お客様はいつでもワインの知識を増やしたいと思っている」(佐久間本部長)という。
 こうした取り組みが奏功して、03年にはワイン通販の年間売上高が20億円を突破した。この時期からネット通販が急速に普及してきたが、ネット通販の主流は、ベルーナが実績を積み上げてきた頒布会ではなく、単品販売だった。ネット通販参入にあたっては、単品販売も強化せざるをえなかった。参入当初、頒布会販売と単品販売の比率は85対15だったが、いまでは55対45にまでシフトしてきている。
 さて、国内のワイン市場はどのように推移しているのだろうか。国税庁の「酒類課税数量推移」によると、10年度の国内酒類市場は横ばいだったが、ワインは前年比9・7%の伸びを示した。11年度は東日本大震災の影響で一時的に縮小したものの、今年度に入り回復基調にある。第7次ワインブームが到来したという見方もある。
 ベルーナのワイン事業は今年度上半期(4月~9月)に前期比10%の伸びを示した。13年3月期の通販分野の売上高は二桁の伸びを見込んでいるという。

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