株式会社ワークスアプリケーションズ 牧野 正幸

Guest Profile

牧野 正幸(まきの・まさゆき)

1963年、兵庫県生まれ。大手建設会社、ITコンサルタントを経て、96年に同社を設立。ERPパッケージ市場で国産パッケージトップ。また「問題解決能力発掘インターンシップ」を始め、新しい採用プログラムを次々と実施。2010年には「働きがいのある会社」(Great Place to Work Institute Japan)第1位に選出。7年連続ベスト4にランクインしている。経営者としても「理想の経営者ナンバーワン」に選出されている。

特集CEOに直撃!(第8回)伸びる企業の活かすヒト戦略

1.海外展開を視野に、2014年度入社の半数はグローバル採用

96年の創業以来、国内大手企業向けERPパッケージソフト『COMPANY』シリーズを業界で初めて開発してから、常にトップを走り続けている株式会社ワークスアプリケーションズ。海外への事業拡大に本格的に乗り出した同社の代表取締役CEOの牧野正幸がワークスの採用戦略を語る。
「数年前からグローバル展開していくお客様が増えていくなか、『海外でもCOMPANYが使えればいいのに』とおっしゃるお客様の声を多く聞くようになった。海外で困っている日本企業を助けられるのは当社だけですから、採算度外視で『全世界、どこでもサポートする』ことを決めました」

すでにシンガポール、上海、ニューヨークに進出。今後はお客様のニーズに応じて、ヨーロッパやアフリカも視野に入れる。
「さらなる成長を遂げていくために現地法人も対象顧客としています。現地状況を把握するためにも外国からの採用も始めました。もう日本国内だけでは優秀な人材が採りきれないのが現状なのです」

その言葉を裏付けるように、2014年卒の採用実績は約250名。その半数が中国、インド、シンガポール、台湾、香港、イギリスでのグローバル採用だ。
「各国のトップクラスの大学を卒業した学生たちですから、もちろん優秀です。日本の学生との一番の違いは、圧倒的な成長を遂げるための貪欲さで、勉強量もすごい。同僚としてともに働くことは、日本人にとっても大きな刺激になると思います」

そうして現地採用する一方、牧野は入社4~5年の若手日本人社員を海外拠点へ次々と送り込んでいるという。
「自分自身の経験から、早いうちに海外で働いたほうが圧倒的な成長につながると思っています。みんな英語が話せないまま赴任していますが、だいたい一年くらいで話せるようになりますよ。

自分のキャリアのため、若いうちからグローバルの状況を理解するべきです。今後は資本力があるアジアが台頭し、海外の企業が日本企業を買収する時代が来るでしょう。グローバルで生き抜く力を身に付けなければ働けない時代がすぐそこに来ている。私は日本の若者にそんな状況にも負けない力、世界中どこでも働ける力を付けさせたいと思っています」

2.優秀なら、いくらでも採る。「無限採用」を実践

創業以来、牧野を悩ませていたのが人材の問題だった。
「日本ではパッケージソフトの開発は無理だと言われていた。だからこそ、本当に優秀な人材が必要でした。しかし、当時日本にはパッケージソフトベンダーがほぼなかったので、当然、パッケージソフトエンジニアもいない。それならゼロから育てるしか無いと思い、優秀な人材を求めて新卒採用を始めました」

採用コストは一人あたり1000万円。それだけの投資に足る人材は他社からも引く手あまただ。
「当社が考える、圧倒的に優秀な人材とは、0から1を生み出す問題解決能力を持った人材のこと。それを見極めるために問題解決能力発掘インターンを実施し、約一ヶ月の時間をかけてあえた正解がないようなカリキュラムを実施しています。既存の枠組みに捉われず、新しい視点で物事を捉えるクリエイティビティの素養をじっくりと見極め、戦力になると見込んだ学生には「いつでも入社してください』というパスを渡しでいます。毎年何百人と採用しても、会社の成長のためにはそれでも足りないくらいです。

シリコンバレーのベンチャーにインターンに来ている優秀な学生はみな『なんで大手に入らなきゃいけないの?』と言うのです。ゼネラル・エレクトリックみたいな会社は新卒で入るところじゃない。会社の規模は小さくせも全責任を追って自分の力だけで働けるところで、圧倒的な成長を遂げたうえで、大手企業で一気に10倍のサラリーにするという考え方。日本の学生とは発想からまるで違います」

一時期、思うように採用ができず、苦戦が続くなかで牧野が打ち出したのが「無限採用」だ。
「営業する上において、『今年は3600億円位上売ったらダメだ』なんて言ったらモチベーション下がるでしょう。リクルーティングも一緒のはず。だkらどんなときでも優秀な人材は無限に採用することに決めました」

3.採用担当者は各部門のエース社員

現在、ワークスの採用担当は30名程度。みな各部門のエース級人材だ。
「どの部門も優秀な人材を出したくないから引き抜くのが大変です(笑)。広告費に多くお金をかけるより、優秀な社員が『一緒に仕事しよう』と声をかけ続けることで優秀な人材が集まります。昔は、私自身が学生たちの採用活動に携わっていたのですが、現在3000人規模の会社になり、新入社員と経営陣が一緒に仕事をすることはほとんどあり得ない。経営陣にひかれて入社してきた新入社員からしたら『だまされた』と思うでしょうが、優柔な現場社員に惹かれて入社したのであればそんなことにはなりませでんから」

グローバルでの人材管理の在り方も、見直されてきているという。
「アメリカの雇用市場では必要な時に人を採用し、余剰になれば手放すという考え方でした。ところが最近では、タレントやマネジメントという考えが欧米でも流行してきています。

それは日本では昔からある当たり前の”人事管理”手法です。『営業よりもマーケティングのほうが向いているかもしれないから異動させよう』とか、社員を細かく見る。適材適所で人をローテーションさせ結果、終身雇用制となるのは、悪いことじゃない。これから欧米でも人材の囲い込みに注力していくことになり、グローバルでの人材採用は新卒・中途共にますます激化していくでしょう」

4.~COLUMN~

「あの社長といっしょに働きたい」という熱い思いで入社を決める就活生は少ない。しかし、ほとんどの場合、入社をすれば、社長は雲の上の人、話をする機会もなければ、滅多に見かけないということすらある。採用側からすれば、魅力的なトップは優柔な人材を確保するための切り札、それを生かさない手はないと考えるのも、採用難の時代であればあるほど、無理からぬ話だ。ところが、それを牧野はきっぱりと否定する。その代わり、実際に一緒に働く可能性の高い現場のエースにその役目を託す。これで「だます」「だまされた」はなくなる。採用される側の気持ちを知り抜いた、同社ならではのヒト戦略の一端を垣間見た気がする。

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