株式会社生活の木 重永忠

Guest Profile

重永 忠(しげなが・ただし)

1961年原宿表参道生まれ。大学卒業後、大手流通企業入社。その後、経済産業省中小企業大学校経営コースを経て株式会社「生活の木」代表取締役に就任。現在はTree of life(PVT)LTD代表取締役や、商店街振興組合「原宿表参道﨔会」副理事長など地域に根ざした幅広い活動を行なっている。モットーは「自然に・健康に・楽しく生きる」

特集社員満足度調査ナンバーワン企業が掲げる「志事」と「自業」

1.社員のどこに不満があるのかを知って改善した2つのこと

 一般には知られた存在ではないが、ハーブやアロマテラピーの世界ではつとに有名な企業がある。社名は株式会社生活の木。設立は1967年で、以降、この分野の先駆者としてハーブ・アロマテラピー関連商品の開発・製造・販売などを行なっている。店舗は提携店を併せて全国200店に及び、オンラインで販売する商品は2000点を超える。そのほか、正しいハーブ・アロマテラピーの知識と文化を普及するためのスクール「ハーバルライフカレッジ」や、本場スリランカの本格的なアーユルヴェーダトリートメントサロン「アーユシャ」を全国に展開するほか、メディカルハーブガーデン「薬香草園」、ハーブレストラン「ヤハラテナ」の運営も行なっている。スリランカでは、こうしたコンセプトのホテルまで経営している。

 同社は、経営コンサルティング会社リンクアンドモチベーションが実施した2009年の社員満足度調査で東日本エリア1100社中ナンバーワンに輝き、翌年のワールドビジネスサテライトでも〝社員のやる気をあげる企業〟として取り上げられ、一躍注目を浴びた。そして、13年には「ベストモチベーションカンパニーアワード」を受賞している。

「会社というのは、何を目的に経営をしていくか、それを突き詰めていくのが経営者の使命だと思うんですね。2000年までは、それが、お客様の満足の質を上げようということだった。しかし、その後、〝社員が人生をかけて働いて幸せになること〟に変わりました。もちろんお客様に満足していただくというのは、大前提なんですが、むしろ、僕は社員の幸せのほうに重きを置きたいと、いまは考えています」

 同社代表取締役社長の重永忠はこう語る。
 実は、同社は、06年に実施された社員満足度調査(職場環境、制度から仕事内容、報酬などまで48項目にわたる社員アンケートにより社員の満足・不満の度合いを測る)では、社員のかんばしい結果を得られていなかった。そのとき重永は「社員がいったいどこに不満があるのか」を知り、改善しようと考えた。

 調査の結果は、第1位が「もっと勉強したい」、第2位が「トップに会いたい」だった。いずれも、前向きの不満であることに勇気を得、この2つを実現しさえすれば、不満は満足に変わると確信し、早速改善に乗りだした。

 1に関しては、力をつけて会社や顧客に貢献したいということと理解し、研修を行なうことにした。2に関しては、自分が研修を行なえば社員と直接会うことができる。それに加えて研修後に社員と食事をする機会を設けることにした。

 この2つの対応策を徹底的に実行することによって、3年後の同じ調査で、同社は東日本エリアでナンバーワン企業となるわけだ。

 「この結果には、素直に喜びました。社員が働きやすい会社に変えれば、社員が活き活き働ける。その実感が得られるにしたがって成果も伸びてくる。社員の幸福を第一に考えることが間違っていないという思いを強めてきています」

2.顔が見える会社だからできる一貫した「オール自前主義」

 こうしたことから、同社が研修に置く比重はいまも大きい。新卒についていえば、内定後の8月に斑尾高原での泊まり込み合宿がある。そこではチームワークや企業理念を体験を通して学ぶことが目的で、6時起床、ラフティングやマラソンもプログラムに含まれており、12時過ぎまで語らう。その後入社までに座学が3回、4月に入社すると3週間の研修があり、うち1週間は岐阜の工場・流通センターでの泊まり込み合宿となる。そのほとんどに、重永が参加する。

 また、岐阜の社員については部門ごとに品質管理活動の一環としての3ヵ月の改善目標を立てての研修を行なう。終了後は40人ずつを集めての飲み会を行なっている。

 第1回の社員満足度調査のときの従業員が約300人、それが現在720人。重永は「顔が見える会社にしていこう」をモットーに、「従業員が1000人になっても諦めない」という。

「企業が大きくなるほど家族的にしていきたい。個を尊重する経営でありたい」とも。そんな思いを込めて彼は、社員の誕生日には、直筆のカードを送っている。

「ウチの場合、ハーブやアロマテラピーの魅力を知って使いこなす人たちが入社してくるんです。かつて顧客だった人も多い。顧客と社員がボーダレスなんです。プライベートと仕事の仕切りがあまりない。ウチでは仕事は「志事」、事業は「自業」と言います。ハーブやアロマテラピーが好きで入ってきたからには、やりがいを見つけてほしいと思っています」

 同社は、開発から製造・販売ショップ、スクール、ハーブガーデン、工場、サロンの運営に至るまで「オール自前主義」「オリジナル主義」を貫いている。

「これは業界では世界でオンリーワン。全部自分たちでやるのは大変なんですが、本物になるし、ノウハウも自分のものになる。他がまねをできないんですね。どこもやってないことをやっている会社だから、社員も生きがいを感じることができると思います。また、ウチの場合、商品よりまず文化の開発ありきなんです。文化が広まっていく過程のなかで、その中心にあるのが人財」と胸を張る重永。同社はまた、ユニークな業績連動型賃金体系をとっている。

 税引後の利益を3分割し、内部留保と先行投資に3分の1ずつ、残りのは、年2回の固定ボーナス以外に社員に還元しているのだ。今後は4分割として、万一の場合にも社員が路頭に迷わないよう、4つ目の使途として危機管理に充てようと考えているという。

「社員の幸せを目指せば目指すほど、会社はよくなるということをこれからもオープンにしていきたい」と語る重永。ハーブ・アロマテラピーは空間演出、スポーツ、医療・介護の分野にも浸透、導入が始まっており、さらなる外延性が期待できそうだ。社員の幸福=企業の発展の実現の証といえようか。

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