エン・ジャパン株式会社 越智通勝

Guest Profile

越智 通勝(おち・みちかつ)

1951年、兵庫県生まれ。大学卒業後、メーカーを経て、大手教育コンサルティング会社に転職。組織開発・教育研修の企画・提案業務に従事。83年株式会社日本ブレーンセンターを設立。10年後、関西ナンバーワンの求人広告の代理店となる。95年、総合転職情報サイト「縁」エンプロイメントネットの運営を開始。2000年に同事業部をエン・ジャパン株式会社として独立させ、代表取締役社長に就任。01年6月、設立からわずか1年6か月で上場を果たす。04年、エン・ジャパンと日本ブレーンセンターを統合。08年、代表取締役会長に就任。

特集組織ごっこに注意せよ コミュニケーションが自由に行き交す組織をつくれ。

1.課長を通すような″組織ごっこ″は絶対にあってはならない

「課長に昇格させた途端、『部下と接点を持つ時は私を通してください』と言われました。どのような対応が正しいのでしょう?」
 社員数が数十人に達すると部下を持つ役職者が誕生してくるが、その時、経営者はこんな悩みに直面するものだ。結論から申し上げれば、課長を通すのも、部下と直接やりとりをするのも、どちらもあり、である。そういう組織でないと発展できない。
 この規模の段階で逐一、課長を通すような″組織ごっこ″は絶対にあってはならない。組織にコミュニケーションの階層をつくらず、フラットにしておかなければならない。社長が課長を飛ばして、部下に対して即断即決を行なうのは当然の行為だ。朝令暮改も構わない。そうでないと経営にスピード感が出てこない。
 かりに社長が自分自身で現場情報を収集せず、課長の判断だけに依存するようになったら、社長の能力が伸びていかない。むしろ低下してしまう。社長の器を大きくすることは経営者にとって永遠のテーマだが、特に小規模企業から、中堅企業に脱皮する時は必須だ。だから自ら判断を行ない、自ら能力を伸ばすことが重要なのだ。

2.逆転人事も大いに有り。狙い打ちの幹部育成にも取り組むべし。

 どんな会社でも社員数が50人ぐらいに増えると、創業メンバーの中に会社の成長についてこられない者が現れてくる。数十人規模でもこの問題が発生する。私は次のような相談をよく受ける。
 「創業メンバーより、最近入社した社員の方が優秀な場合、立場を逆転させたほうがよいのでしょうか?」
逆転人事は行なうべきで、これができない社長は退任すべきだ。能力にかかわらず社歴の長い社員が上司であり続けると、優秀な後輩は辞めていく。社歴の長い社員には仲間としての情が移るものだが、会社全体を考えて公正な人事を行なわなければ、会社は大きくなれない。
 当然、逆転される側となる創業メンバーには敗者復活のチャンスを与えることが必要である。しかし後輩に追い抜かれれば、プライドが邪魔をし、仕事がやりにくくなって辞めていく者が多い。
 私も幾度となくそんな場面に立ち会ってきた。当社の創業メンバーの一人だが、後輩に抜かれ、頑張って追いついたものの、またすぐに引き離されてしまった。私には彼に対する情があるから、残ってほしいと思い「おまえ、事業部長は向いていないから管理部長になったら」と説得をした。しかし本人にはプライドがあるし、周囲からの評価も分かっている。結果、彼は退職をした。さすがの私でも感傷的になる出来事だった。
 私は後輩に抜かれそうな社員には「おまえ、まずいぞ」と警告しているし、過去の成功体験に安住してはいけないことも諭している。「君ら、過去に縛られてはいけない。社長である俺自身が現状を否定して、新しいことをやろうとしているのだぞ」と。マーケットの変化が著しいなか、変化に対応し成果を出し続ける人材を配置するのは経営者の責任である。そのためには、逆転人事もあり得る。
 ただ、社員数が100人を超えると社長は全社員に目が行き届かなくなり、優秀な人材を見落としやすい。私も、以前知人の経営者から、「当社で活躍している社員で、君の会社から転職してきた社員が何名かいるよ」と名を知らされて「そんな優秀な人材、いたっけ?」と驚いた経験がある。
 この弊害を防ぐ対策は、各部門の長に自分の後任候補、その次の候補者の計2人を指名の理由を添えてピックアップさせる。そして、その2人には社長が目をかけ、声をかけておくことだ。もちろん、彼ら以外にふさわしい社員がいるかもしれないので、社長が直接選抜することも必要だろう。
 つまり、選んだ社員を狙い打ちして育てるのである。社長から目をかけられた社員は喜び、ますます仕事に精を出し、現管理職は緊張感をもってくれる。私の経験から、狙い打ちは必要な取り組みだ。意外と経営者は、この重要なところを見落としがちである。

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