株式会社富春館 帆足 めぐみ

Guest Profile

帆足 めぐみ(ほあし・めぐみ)

大分県生まれ。短大卒業後、大分銀行に入行。その後、1991年に帆足家に嫁ぐ。2000 年3 月以降、帆足本家に点在する歴史建造物を徐々に活用し、幅広い事業を展開。地域密着型の新感覚の情報発信基地として、「帆足本家 富春館」の総支配人を務める。 事業内容:「ギャラリー富春館」、「ごぼうとデリカテッセン『LIFE&DELI富春館』」、「菓子処『一楽庵』」、「カフェ『桃花流水』」、「レストラン『桃花流水』」の5店舗の運営、「帆足本家酒造蔵」(大分市有形文化財)の管理、食品、菓子の製造販売。 設立  :2000年 所在地 :大分県大分市大字中戸次4381番地 U R L   :http://www.hoashi-honke.com/

特集幕末の佇まいに、『手づくり』、『エコ』、『安心安全』大分発の新感覚、文化情報発信サロン

1.頼山陽、田能村竹田ら 文人墨客から愛された館

幕末から明治にかけて建築された佇まいに、現代をうまく融合させた新感覚の新施設として注目を集めているのが、大分市にある「帆足本家 富春館」である。2000坪(6600㎡)の広大な敷地には、酒造蔵、母屋、蔵(倉庫)が往時のままの姿をしのばせ、ギャラリー、カフェ、レストラン、菓子処、地産地消の食品の製造販売所などが要所に配置されている。県内はもちろん、九州全域、さらには全国から、この施設を目当てに訪れる観光客も増え、「ホッとする場所=理想郷」、「2、3時間滞在しても飽きない安らぐスポット」として脚光を浴び始めている。

この土地を所有する帆足家は、1586年(天正14年)に豊後国玖珠郡(現大分県)より戸次(へつぎ)に移り、江戸時代には臼杵藩の庄屋となり、農業の傍ら酒造業(安政4年(1857年)から昭和47年(1972年)まで)を営んできた。その酒造蔵は、現在、大分市有形文化財として一般公開(無料)されている。

母屋の「富春館」は、臼杵(大分県)の名棟梁として名高い高橋団内の作となる式台付き玄関など、商人でありながら武家の家構えを特別に許された家であることを伝えている。また、館号の「富春」は帆足家醸造の銘酒を意味し、交流のあった儒学者頼山陽(らい・さんよう)によって揮毫命名されたという。帆足家は文人墨客との交流も盛んで、豊後竹田出身の南画家・田能村竹田(たのむら・ちくでん)は幾度となく帆足家を訪れている。

帆足本家 富春館のコンセプトは「文人墨客に愛された自由さをそのままに。現代のサロン『富春館』」。帆足めぐみ総支配人は「文人墨客が遊んだ足跡が残る、この地域をもう一度蘇らせたい。そのために、『生命』、『有機』、『発酵・熟成』、『手仕事』、『エコロジー』、『食の安心安全』をキーワードに、古き良き時代の文化を新感覚で現代人に活用してもらうために、時間をかけて、ひとつひとつ創りあげています」と話す。

2.施設全体に通じる 安心安全、自然、手づくり

「カフェ富春館」では、テーブルと脚に酒樽の蓋とせいろを使用。梁、土壁は当時のまま残されている。ここで飲むコーヒーは「時間がゆっくり流れていて、タイムスリップした感じが楽しい」という評判が口コミで広がっている。

富春館の地元戸次地区はごぼうの名産地であることから、ごぼうに関連したオリジナルのお菓子づくりにも力が入る。「ごぼうかりんとう」「ごぼうキャラメルおこし」「ごぼうスティック」「ごぼうのキッシュロレーヌ」(卵と生クリームを使って作る、フランスの郷土料理)などが人気の品。菓子処『一楽庵』では、蓮粉で練った琥珀色の「れんこん餅」、和三盆の甘みをきかせたもちっとした食感のどら焼き「丸帆餅」、自然栽培素材だけで作った大福はじめ、安全、安心な自然の素材を活かし、職人の手を経て、ていねいに仕上げられた甘味を味わうことができる。

「お土産用としてだけでなく、ふだん使いのものも、ここ富春館でしか買えない、味わえないものを提供しています。なかには、職人さんの腕と、パートさんの工夫やアイデアのコラボレーションによる商品もあり、密かな人気となっています」(帆足さん)

現在、同施設で人気の商品メニューの一つが「元気が出る発酵ごぼう弁当」(1800円・税別)。ごぼうをはじめ、根菜をたっぷり使った地元料理が中心だが、それらを供する食器は、帆足家に伝わる焼き物や漆のほか、現代アーティストの作品も使用する。ここでも時代ものと、現代とがうまくマッチングされている。

ギャラリーでは、全国で活躍している現代アーティストの作品が、この地で直接触れられるように、自然素材(木・竹・草・土・絹・麻・木綿・石)を使ったモノづくりをしている各地のアーティストに声をかけ、常設展示のほか、展示即売会を年に20回程度行なっている。

3.まだまだ進化を続ける古きものと現代との融合

「ビジネスということからいえば、いまのところギャラリーの売上げが主流。もちろん、口コミなどでファンが広がっていますから、カフェ、レストラン、スイーツなどの事業の売上げもこれからどんどん伸びていくと思います。ここは立地条件として、国道からも少し離れアクセスにも便利ではありません。しかし、最近は口コミで徐々に知られるようになって、遠方からのお客様も増えています」

帆足総支配人はいまも、改装・補修の技術などをマスターするために日本全国の古民家や保存地区を見聞するなど、マーケティング活動を地道に行なっている。「まだまだ手を加えなければならないところがあります。古き良きものと現代との融合をさらに進化させ、『ここでしか感じられないもの・味わえないもの・買えないもの』を創り続けていきたい」

2016年、政府は20年のインバウンド(訪日外国人旅行客)目標を従来の2000万人から4000万人に引き上げた。30年にはさらに増加し6000万人に達すると見込んでいる。古き伝統がいまも息づく日本にひかれ、訪日を決める外国人旅行客は少なくない。そうした訪日外国人の目に、古き日本の良さと現代の文化を融合させた新感覚の施設「帆足本家 富春館」はどう映るのだろうか。

帆足支配人が創り上げる〝古き良きものと現代との融合〞の進化形から目が離せない。

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