うちだまさみの本音でトーク!! IPO社長訪問

うちだまさみの本音でトーク!! IPO社長訪問

Guest Profile

矢田 峰之(やた・みねゆき)

ソーシャルワイヤー株式会社 代表取締役社長
事業内容:プレスリリース配信、クリッピングサービス、レンタルオフィス、クラウドソーシング翻訳サービス
設立    :2006年9月
所在地  :東京都新宿区新宿2-3-10 新宿御苑ビル
U R L   :https://www.socialwire.net/

インタビュー本当の上場効果はチャレンジを恐れない社員の成長

1.伸びることが当たり前のベンチャー環境で育つ

ソーシャルワイヤーは、企業のプレスリリース配信を代行する「@Press(アットプレス)」や、新聞・雑誌・Webメディアの記事をクリッピングするサービス「@クリッピング(アットクリッピング)」を運営するほか、レンタルオフィスサービス「CROSSCOOP(クロスコープ)」を、国内のみならず、シンガポール、ジャカルタ、デリー、ホーチミン、マニラ、バンコクなど、海外でも広く展開している企業だ。

創業社長である矢田峰之氏は、新卒で入社したソフトバンクや当時日本最大級のインターネット銀行イーバンク銀行(現・楽天銀行)の創成期など、一貫してベンチャー畑を歩み続けてきた。

「10年もの間、勢いのある企業に身を置いたことで、自分の中では事業が伸びていくことが当たり前になっていた。自分がいたから伸びたわけではないが、当時は、誰もが自分のおかげだと思っていた。もちろん、私も例にもれず(笑)。なんと言うか、魔法にかかっていたような。でも、そんな環境に慣れてしまうと、業績が伸びなくなると途端に不安になり、成長し続けていたいと思って、急かされるように起業した」と、独立した理由を話す。

これまでの仕事の中で体得したECサイトやネットマーケティング、バックオフィス業務に関するスキルを武器に、2006年、未来予想株式会社(現在のソーシャルワイヤー)を起業。ベンチャー企業の経営企画や管理部門を支援するコンサルティング業務を柱に据え、年商1億円を超えるまでにそれほど時間はかからなかった。

「ソーシャルワイヤーが上場した前後に、当時の顧客だった企業数社も上場した。業績を伸ばしたいと本気で思っているベンチャー企業はたくさんあり、わが社は顧客に恵まれていたのだと思う」と謙遜するが、顧客企業にしてみれば、矢田氏の経験に基づくコンサルティング力に助けられた面は大きかっただろう。

もちろん、矢田氏も創業時から上場を念頭に置いていた。「創業出資してくれたエンジェル投資家から上場を促されたことは一度もなかったが、IPOしなくてはならないと考えていた。彼らにとってはそれほど大金ではなくても、大切なお金を投じてもらったという責任を常に感じていた」

2.海外進出決断後に超円高局面という幸運

事業が軌道にのり、上場が現実味を帯びてきたとき、矢田氏は経営の舵を大きく切った。

「コンサル事業は、人材がいないと売上げを伸ばすことができない。しかも、新しい顧客を増やし続けなければ、売上げは減るばかり。この事業だけで、売上げ1億円を一気に10億円にするのは無理だろう。そうだとすれば、規模拡大を目指せる事業をすべきだ」

創業3年目に買収したアットプレス社でプレスリリース配信サービスを開始。同時期に子会社化したアップステアーズ社はレンタルオフィス事業をスタートし、売上げ規模は3つの事業それぞれ1億円ずつ、合わせて約3億円に拡大した。

矢田氏はこのとき、規模拡大が期待できる、コンサル事業以外の2事業で勝負をかけることを決めていたという。

経営の舵を切ったことで、思わぬ効果も生まれた。

「ビジネスを伸ばすためにやるべきことがわかると、これまで足元ばかりを見ていた視点が、3カ月後から半年後へ、そして一年後へと変わり、先を見て経営ができるようになった。その結果、いまの売上げを伸ばすことより、将来の伸び代を重視するようになり、事業の効率が格段によくなった」

その甲斐あって、創業から5年目を迎えた頃には、安定した収益基盤を築くことができた。

しかし矢田氏の〝成長し続けていたい〞という気持ちは、それだけでは満足しなかった。
 
11年6月、レンタルオフィス事業での海外進出(シンガポール)。

「レンタルオフィスは、空室が埋まらなければ赤字を垂れ流すだけのリスクのある事業。しかし、海外展開なしでは未来の成長がイメージできなかった。だから、海外事業が軌道に乗るまでの赤字を、国内事業で吸収できるようにしておく必要があった。それができれば、海外事業が収益化した時に、一気に売上げを拡大できる」

そんな矢田氏の思い切りのよい経営判断を、環境も味方した。

ソーシャルワイヤーがシンガポールに進出した11年と言えば、ドル円が70円台、シンガポールドルも60円台と歴史的な超円高局面。海外ビジネスに投資するには絶好のときだったと言ってよい。

「この円高を読めていたわけではないのですけどね」と笑いながらも、「海外展開をしたことで、今度は、社員たちの視野が広がった。人は活躍の場が広がると、関わる人間も変わり、視座も変わる。海外に出たからこそ、新しい事業を怖がらずチャレンジできる社員が増えた。成長スピードも加速している」と続けた。

3.上場を経験し社員の視野も拡大

ソーシャルワイヤーは、海外事業が収益化した15年12月に東京証券取引所マザーズ市場に上場した。

「上場効果を強いてあげると、上場直後に人が採用しやすくなったこと。しかしながらアベノミクス効果で、採用市場は売り手優勢となり、再び採用は厳しくなった。それよりも、上場を目指して進んできた過程で、社員たちがこの会社でまだまだこれから面白いことができる、感動する仕事ができると感じてくれたことの方が大きい。本当の意味で、上場はひとつの通過点だった」

上場までの9年間で、社員たちの視点も足元から一歩先、二歩先へと変わり、経験を経て視野は広がっていたのだ。

いまや、ソーシャルワイヤーの拠点はアジア各国に広がった。

矢田氏は、「この拠点に、さまざまなビジネスを移植することができれば、売上げは加速度的に伸びる可能性がある。そのひとつが、昨年(16年)買収したクラウドソーシング翻訳事業だ」と話す。

ビジネスのグローバル化が進んでいるとはいえ、アジアはマルチドメスティックな言語障壁の高いエリアのため、専門的な申請書類や重要な契約書などはその国固有の言語でやり取りされている。これからも翻訳事業は欠かすことのできないビジネスだ。

また、プレスリリース配信サービスから派生した新サービス、「SNS利用者のためのお試し商品の体験サイトasagake(アサガケ)」を17年9月にオープン。広報分野から販促分野への隣接マーケットへの拡張の第一歩となり、その存在価値も高まってくるのだろう。矢田氏が、さらなる成長をどこに求めるのか。これからも楽しみでならない。

インタビューを終えて

「経営する視点が、足元から3カ月後、半年後から一年後へ」。今回の取材で最も心に響いた一言です。今日、いま、このときをがんばる社員と、少し先を見る上司。さらに先を見通す幹部がいて、もっと未来を考える経営者が全体を舵取りする。企業にはこんな構造があるからこそ、さまざまなビジネスを行なうことができるのですね。経験こそが人を育てるのだと教えていただき、焦らずにいろいろなことを経験する勇気をもらえたような気がします。

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