成長の秘策ゴチになります!

HOST

株式会社ベネフィット・ワン
代表取締役社長

白石 徳生氏

楽天株式会社
代表取締役会長兼社長

三木谷 浩史氏

GUEST

Guest Profile

三木谷 浩史(みきたに・ひろし)

1965年神戸市生まれ。88年一橋大学卒業後、日本興業銀行に入行。93年ハーバード大学にてMBA取得。興銀を退職後、96年クリムゾングループを設立。97年2月エム・ディー・エム(現・楽天)設立、代表取締役就任。同年5月インターネット・ショッピングモール「楽天市場」を開設。2000年には日本証券業協会へ株式を店頭登録(ジャスダック上場)。楽天グループは、eコマース、電子書籍、トラベル、銀行、クレジットカード他、多岐にわたる分野でサービスを展開し、海外ではアジア、西ヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに進出。ヴィッセル神戸、東北楽天ゴールデンイーグルスのオーナー。東京フィルハーモニー交響楽団理事長。著書『たかが英語!』(講談社)も好評。

第4回若い子の教育には、「やればできる」という達成感、喜びを味わうモーメントづくりが重要

1.投資したいと思えるIT系起業がなかったから、自分で立ち上げた

お久しぶりです。今日は改めて三木谷さんが起業された理由からお伺いしようと思います。

そこからですか(笑)。僕は88年に新卒で日本興業銀行に入ったんです。国立大だったからかもしれないけど、僕らの頃はみんな大企業志向で、起業なんてことはまったく頭になかった。

留学されたのは興銀時代?

そうです。ハーバード大学に留学させてもらったんですけど、そこで初めて「アントレプレナーシップ」という言葉を知ったんですよ。起業しているクラスメイトがいたり、そういう選択肢があるんだなと。そのときはまるで他人事でしたけど。

それがどうして起業することになったんですか?

帰国後、日本の経済状況が好調ではなくなってきて、世の中が大きく変わりそうになってきたんです。日本が新しい産業を必要とする時代になってきていた。これは、ITを始めとするこれからの産業に対する支援が必要だなと。そこで、ベンチャーキャピタル的な会社を始めたんです。

僕、高杉良さんの『小説 日本興業銀行』が大好きなんですよ。興銀は国策を第一に考え、みな「国のために産業を育てる」という思いで働いていると。三木谷さんの中にもそんな興銀マンシップが流れているということですね。

そうですね。ⅠT系の会社を支援して、世の中にインパクトを与えたかった。でも投資したいと思えるようなIT系の会社があまりなかったんですよ。

それで楽天を創業されたわけですね。インパクトを与えるのは、日本を変えるためでしょう? 三木谷さんが目指されているものがわかってきましたよ。経団連を退会して立ち上げた新経連(注1)もそうですよね? あれはかなりのインパクトがありました。

そうみたいですね(笑)。新経連はいまの時代の流れに合ったことをしたいだけなんですよ。いま、国内的にも国際的にも変化の時代なんです。国のあり方、政府のあり方、金融機関のあり方、すべてがITの登場によって変わったといっても過言じゃない。それが理解できていない人が多すぎるんです。このままだと日本は世界から取り残されていくだけ。変わらなきゃいけないんですよ。

2.新経連の狙いは日本の経済を変えること

どう変えるべきだと?

もっとオープンにならなきゃいけない。いままでの日本は海に守られてガラパゴス状態でいられたけど、ITによって、世界が地続きになっちゃったでしょう。これまでと同じやり方が通用するわけがない。なのに、これからの日本がどうあるべきかというビジョンがなかなか出てこない。新経連では、未来を見据えた政策提言をしていきたいんです。

僕、三木谷さんは他のベンチャー経営者とは何かが違うと思ってたんですよ。たとえば昭和的な経営者なのかな、とか。でも話を聞いていると、昭和じゃなくて、完全に明治の経営者ですよね。渋沢栄一的な。

そんな偉くないですよ(笑)。でもアメリカのシリコンバレーには、ベンチャーキャピタルがイノベーションを支援するエコシステムという仕組みがあるんですよ。日本はそういう仕組がない社会になってしまっている。新経連の大きな狙いは新産業を生み出すエコシステムを作っていくこと、そして日本の経済を変えることなんですよ。

3.言葉の壁のせいでITによる世界の変化が見えない

インパクトという意味では、社内公用語英語化も相当インパクトがありました。あれはどういう狙いがあったんですか?

ビジネスにおいては英語のほうが便利だからですよ。

それだけですか? 僕はね、英語化によってその後ろにある楽天イズム、日本的な仕事の進め方やクオリティを世界に浸透させていくっていうイメージなのかなと思ってたんですよ。外国におもねっているようにとる人も多いけれど、違うんじゃないかと。

日本語は大切だと思っていますよ。和歌や俳句など日本語でないとできない文化もたくさんあります。でも日本語でなくていい分野もある。そこでグローバルに対応することによって、日本の文化のすばらしさをもっと世界に向けて発信していけると思うんですよ。言語の壁はできる限り取っ払ったほうがいい。
 ITの登場による世界的な変化が見えていない人が多いのも、この言語の壁が大きいせいなんじゃないかと思うんです。

4.世界中のビジネスレシピから楽天流をアレンジできた

今年はちょうど楽天創業15周年ですよね。振り返ってみて、ここまでの企業成長を遂げられた理由はどこにあると思いますか?

一つはITを選んだということですよね。

でもITなら大手が子会社として作ったり、たくさん出たじゃないですか。なぜ楽天だけが勝ち残れたんでしょう?

ベンチャーだったということも有利に働きましたよね。大手の子会社と比べたら、格段にアジャイル(agile:機敏に、活発に)に動けますから。

短いタームでの軌道修正がカギだったと?

ええ。それはすごく重要。楽天市場はいまも僕が見てますから、気づけばすぐに修正してます。「このボタンをこっちにして」とか。

細かいですね。

それをやらないとダメですね。あと勝因としては、僕の情報網がグローバルだったというのもあると思います。世界中で、経営のヒントになるさまざまな実証実験が行なわれているわけですよ。これはこのコンセプトで失敗した、でもこっちのコンセプトでやればいけるかもしれない、というのが自分でやらなくてもわかる。いわば世界中のレシピブックから、和洋中、好きなものを自分で選んで折衷できる環境だった。

実証実験を見て、日本という土壌に合うものを楽天流にアレンジするということですか?

そうですね。まあ、そうやって自己流でやってるんで、痛い目にもいっぱいあってますよ(笑)。

5.全世界1万人の社員で楽天主義を共有する

あと要因を挙げるとすれば、スタッフですね。優秀な人材を多く迎え入れ、彼らのモチベーションが高まるような環境を用意できたことが大きかったと思います。

三木谷さんの考える「優秀」(な人材)ってどういう人ですか?

業務執行能力が高い人。外交能力、営業能力が高い人。またはスーパーエンジニアみたいに余人をもって代えがたい才能をもっている人。すべてを兼ね備えた人間はいないんで、どう配置するかが重要だと思います。

そういう人材は教育によって作れるものでしょうか?

スーパーエンジニアは難しいですけど、ある程度、教育できる部分はありますよね。理想としては教育システムをしっかり構築して、生え抜きの社員が活躍する会社でありたいです。

でも楽天さんは教育もしっかりされている印象がありますよ。特にマインドの教育はどうされているんですか?

ブレイクスルーするポイントをつくることですね。たとえば、少し高めの目標を与える。「やればできるんだ」という達成感、喜びを味わってもらえる瞬間、モーメントをつくることは大事だと思います、特に最近の若い人に関しては。あとは会社の環境そのものを変えていくことで、社員の意識も変えることができる。英語化もその一環だし、社員全員がプログラミングもできるようにしようと思っているんですよ。

すごいな、それ。うちもいま、社員に「個々のレベル感を上げてくれ」っていう話をしているんです。なんだか簡単なところで満足しちゃっているように見えるんで。

わかります。「楽天主義」の話はしたことありましたっけ? 楽天のブランドコンセプトやプラクティスを提起して、全世界1万人超の社員で共有しているんです。

朝会に清掃、日報、名札、挨拶……。シンプルだけど大事なことが書かれていますね。

ええ、プラクティスは愚直なことをどれだけ徹底していくかが大事。そこに大胆な戦略と、決めたことはやり抜くメンタリティを加えていく。新卒採用でもこの「楽天主義」を見せて、「こういう会社だけど、それでも来たい?」と確認します。最近は新卒の約30%は外国籍ですけど、ちゃんと納得してきてくれていますよ。

新卒で外国人をそんなに採用してるんですか。でも、うちも最終面接では必ずそれやってます。「うちはこういう会社だぞ。入った後で文句言うなよ」って。それでも文句言う社員はいますけど。

なかにはね(笑)。うちは企業買収する際もこれを見せるんですよ。「これが嫌なら、無理には買わないから」って。「楽天主義」はうちの基本中の基本。基本の徹底とイノベーションは二律背反ではないという考え方なんです。

6.アマゾン、イーベイを楽天が追い抜く日

たしかにそうですね。イノベーションは基本の積み重ねから出てくるものですもんね。いま、世界は何カ国に進出したんですか?

eコマースでは13カ国・地域ですね。「楽天〈kobo〉」(注2)など他のサービスも含めると19カ国・地域です。

目標は?

eコマースでは27カ国・地域というところ。やるのは問題ないけど、儲かるかどうかが重要なんで、そこはしっかり見極めなければいけませんから。

堅実ですね。僕、本当は会社をここまで大きくして、今後どうするつもりなのかをうかがいたかったんですよ。でも冒頭の話で、そこではない地点を見据えているのがわかってしまったんで。

楽天でやりたいこともまだまだありますよ。eコマースの世界で言うと、アマゾン、イーベイ、楽天がトップ3なんですが、そのなかでナンバーワンになりたいという目標がありますからね。

アマゾン、イーベイがライバルですか。日本を背負ってアメリカと戦ってる構図が見えますね。

そんなことないですよ。日本とアメリカという違いよりも、ビジネスモデルとしての哲学の違いを感じてますね。向こうは自分自身がセラーになって、利益を上げていこうとする会社。僕らはITを使って、中小企業を助けていこうと考える会社。

なるほど。そういう違いですか。

あと一つ、「楽天はいい会社だ」「いいサービスだ」っていう楽天ファンを全世界に作りたい。僕の人生をかけた大きなプロジェクトだと思ってます。

いいですね! 今日はどうもありがとうございました。

(注1)新経連
2012年6月1日、楽天などIT企業を中心にして活動してきた「一般社団法人eビジネス推進連合会」を改称し、「新経済連盟(新経連:Japan Association of New Economy、略称「JANE」)」が旗揚げされた。代表理事は三木谷氏。政策での見解の違いから、楽天は11年6月に経団連(一般社団法人日本経済団体連合会)を退会していた経緯もあり、当初、新たな第四の経済団体という見方をされた。

(注2)楽天〈kobo〉
2012年1月、楽天は世界190ヶ国、1000万人以上から愛用される電子書籍サービスを展開するカナダのコボを子会社化。7月19日から日本向けの電子ブックリーダー「kobo Touch」を発売、「koboイーブックストア」でのコンテンツ配信を開始した。12年9月25日時点で、日本語コンテンツ総数6万超。

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