昭和女子大学 平尾光司

Guest Profile

平尾 光司(ひらお・こうじ)

1939年東京都出身。一橋大学社会学部を卒業後、日本長期信用銀行(現・新生銀行)に入行。米ペンシルベニア大学大学院フルブライト研究員、日本長期信用銀行取締役副頭取、長銀総合研究所社長を歴任。専修大学経済学部教授、立命館アジア太平洋大学大学院客員教授、信用中央金庫地域・中小企業研究所所長を経て、2011年から学校法人昭和女子大学 理事長に就任。今年度新設のグローバルビジネス学部特任教授も兼任。内外に豊富な人脈を持つ。

特集グローバルな人間を高める「教育」と 実践する大学の魅力

1.全国就職率トップ女子大を統べる異色経歴理事長

 昨今、多くの女子校では、かつての良妻賢母を育てることに主眼を置いた教育から、広くさまざまな世界で活躍できる人材を育てる教育へと大変革をしているという。歓迎すべきことだと思う。これからの日本の社会にはもっと女性の力が必要だし、何より、夢や志を持ち、自分を成長させ、いきいきと働く女性は、とても魅力的だ。昭和女子大学はそうした教育が進んでいて、12年3月卒の大学院進学者を除く就職率が90.2%。全国の女子大(生徒数1000人以上)で3年連続1位だそうだ。

 学長はベストセラー『女性の品格』で有名な坂東眞理子先生。理事長の平尾光司先生は、2002年から学外理事となり、11年4月から理事長に就任されている。日本長期信用銀行の副頭取を務められたあと、多くの民間企業や研究機関で活躍し、専修大学や、立命館アジア太平洋大学でも教鞭をとってこられた。

 僕は平尾先生には13年ほど前から、公私ともどもお世話になっている。僕がかつて勤めていた日本ベンチャー協議会の特別顧問を平尾先生がされていたのが縁で親しくしていただき、それから毎年、大晦日には鎌倉の先生の自宅へ行き、二人で神社へお参りをし、年越しそばをご馳走になっている。

 尊敬する平尾先生が昭和女子大学の理事長に就任しとても誇りに思い、そして革新的な変革をなされていることと想像し、お話をうかがった。

 「大学は教育と研究という2つの目的をもち、文科省の指導のもとに経営を行なってきました。しかしこれからの大学はそれだけでは生き残ってはいけない」と平尾先生は言う。

 背景には少子化がある。団塊ジュニアの僕の世代の人口は200万人いるが、いまの18歳人口は120万人。5年後には100万人を切るという。その減少と反比例して四年制大学の数は増え続け、僕が入学する頃に500校ほどだったのがいまや783校。いま定員割れの大学が急速に増え、今後10年で100校は無くなるといわれている。

 「卒業生にとって、母校が無くなることほど悲しいことはないでしょう。昭和女子大学が魅力的な大学であり続けるために、本学では教育と研究という二本の柱に加えて、学生の就職力、財務力という柱、四本の柱が支えるピラミッド構造を大学の価値とし、この立体の容量を大きくしていくことに注力しています。私の第一の役割はガバナンス。経営の透明性を高め、財務力を高めることです」

 経営の透明性を高めることで、何が必要なのかが見えてくる。大学も一般の企業と同様に、財務マネジメントが非常に大切なのだ。財務力を高めるためには多数の生徒が受験し、定員一杯の学生に在籍してもらうことが大切だ。そのためには、卒業生がさまざまな分野で活躍する姿を見せることが刺激になるだろう。

2.大学生の留学経験比率は日本でダントツの10%超

 昭和女子大学では10年ほど前から、キャリア教育とグローバル教育の二つに力を入れてきた。そのやり方は実に実践的だ。

「まずは社会に出てからどういう仕事に就き、どういう働き方をしたいのか、目的意識を持たせること。そのために1年生からのキャリアを意識した教育をし、10年ほど前から企業へのインターンシップ派遣を行なっています。12年度は140社に294人の生徒が参加しました。

 一昨年からは社会人メンター制度をスタートさせました。多様な業界で活躍する350人の社会人女性に昭和女子大のメンターとして登録してもらい、学生がキャリアを考えるときに随時相談相手になるという制度です。非常に有り難いことに昭和女子大OGでない方も多数登録くださっている。メンターフェアなどメンターと学生が多数集まって交流する場もあり、とてもにぎわいます」

 僕の就職活動の頃とは大違いで驚く。早稲田にも就職課はあったが、窓口に行けば求人のある企業を紹介してくれる程度のものだった。また就職にあたって社会人の方に一対一で話を聞くには、アポをとってOB訪問をするしかなかったが、すっぽかされたりかなりの上から目線だったりして、嫌な思いもしたものだ。

 昭和女子大学はグローバル教育にも力を入れている。

 「1988年にアメリカキャンパス昭和ボストン校を開学し、学科にかかわらず、短期から1年半までさまざまなプログラムで多くの学生が留学を経験します。また中国の超名門の上海交通大学、韓国のソウル女子大学、オーストラリアのクイーンズランド大学、ポーランドのワルシャワ大学、カナダのロイヤル・ローズ大学など世界の一流大学と協定を結び、留学制度を整えています。いま、日本の大学生で海外留学をするのは1%強で、東京大学でも3%強。それに対し、当校の留学経験者は10%を超えています」

 そうした実績が評価され、昨年、文部科学省の『グローバル人材育成推進事業』に採択されたという。女子大で採択されたのはお茶の水女子大と昭和女子大のみだ。

 今年4月からは、世界で活躍するビジネスリーダーの育成を目指し、グローバルビジネス学部ビジネスデザイン学科を新設している。英語でビジネスや経営を学び、2年次には全員が半年間ボストン校に留学。ハーバード大学の大学院生から指導を受け、卒業論文の代わりにビジネスプランを作成するという。

 グローバル教育の一方で、ローカル活動にも積極的だ。地元世田谷の商店街を活性化させるイベントや、地域の子供たちに科学を教えたり、地元のお祭りで地域オリジナルの山車を作るプロジェクトなど、地域と結びついた学生主導のプロジェクトが毎年、多数立ち上がっているそうだ。

 「すべての基礎になるのは人間力。クラス編成があるのは1学年だけの大学が多いが、本学では卒業するまでクラス制度があり、担任教師がずっと見ていく。毎年クラスごとに3泊ないし4泊の学寮研修があり、人間力を育てることに力を入れています。そうした上に、さまざまな勉強や経験が積み上がり、非常に前向きで魅力的な女性が育つ」と平尾先生は語る。

 昭和女子大学の改革は、平尾先生が学外理事となった10年以上前から、理事会のメンバーみなで進めてきた成果だという。頭が下がる。74歳になられたいまも次々と新しいことにチャレンジしていくその姿を、僕は生涯の師として見続けていきたい。 

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