アクティブ・メディア株式会社 磯島順一郎

Guest Profile

磯島順一郎(いそじま・じゅんいちろう)

1976年生まれ。早稲田大学卒業後、1998年ジェーシービー入社。その後アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)にて大手企業を中心にシステム戦略のコンサルティング業務に従事。2009年にアクティブ・メディアを創業。

特集 「3回定着の法則」をサポートし 5年後も優良顧客で 賑わう店を育てる リピーター管理

1.飲食業界は ブルーオーシャンだ

人口減少、少子高齢化、コンビニエンスストアやスーパーによる中食市場の拡大、人手不足に原材料費の高騰など、飲食業界を取り巻く環境は厳しい。飲食店紹介の人気ネットメディア等に販促費を投入した顧客獲得競争も続いている。
 こうした状況にありながらも「飲食業界にはまだまだブルーオーシャンがある」と明言する人物がいる。アクティブ・メディア社長の磯島順一郎だ。
 アクティブ・メディアは、ポイントカードシステムやICカードによる会員証システムなどITを活用したオリジナルの顧客台帳(「顧客名簿」×「来店情報」)づくりと、そのデータベースの管理・運用、および販促代行の実績により、導入先の飲食店・美容室・その他サービス業から厚い信頼を獲得している。これまでに約3000店で導入、1年契約が基本だが、98%が継続利用だ。
 同社の創業は2009年。それまで磯島は、主に外資系企業に勤務する高所得層(欧米人)を対象に、高級エステ、マッサージ店、歯科医などの口コミメディアを運営し、有料掲載店を順調に増やしていたが、08年9月のリーマンショック後、ユーザーの多くが本国に帰国。顧客獲得に苦しむことになった掲載店舗からの相談を受けるうちに、それら店舗には紙ベースだが、カルテ(顧客情報)がゴミの山のように保管されているのを発見した。
 前職でITコンサルタントとしての実績をもつ磯島は、そのとき、すぐさま閃いた。「大量の紙のカルテ×ITで、宝の山に変えることができる!」。それだけの顧客情報をITにより管理、分析すれば、優良顧客を発見し、リピート率を高め、利益率向上につなげることができる。
 これを進化させたのが、現在のアクティブ・メディアのサービスだ。当初はシステム開発のみ、営業チームを組織しての販売活動を行なっていたが、磯島の熱い思いとは裏腹に、なかなか成果につながらない。システムだけ導入しても、店舗側ではその管理・運用に人材を割く余裕はなく「結局、高いコストを払わされたうえに何も効果を期待できないものになる」という危惧を拭い去ることができなかったのだ。
 そこで磯島は思い切って店舗側の気持ちに立って考えた。その結果、「システムを売るだけの会社になりたくない。導入後も顧客店舗に寄り添う」と考えるに至った。

2.PDCAを回すための ビジネスパートナー

磯島が重視するのは「3回定着の法則」だ。
 3回来店してくれて初めて本当のリピーターになる。既存客に再来店を促し、とにかく3回足を運んでもらう。そういう顧客は価格訴求が刺さるのではなく、サービス内容であったり、接客に魅力を感じたりして利用してくれる顧客だ。そうした顧客を増やすことができれば、チラシ配りやメディア広告などにコストを費やし新規顧客を一時的に増やすことより、利益向上につなげることができる。一人の顧客がお店にもたらしてくれる価値(生涯価値)を考えれば圧倒的な違いになる。
 具体的にアクティブ・メディアが展開するサービスを見てみよう。
 まずはどういう手段で、顧客台帳を構築するシステムを考えていくか。たとえば、ポイントサービスで顧客の購買情報を集めていくか、独自の特典(会員サービス価格など)をつけた会員証システムで顧客情報を収集していくか。店舗の業種、特性に応じた方法を考え、カスタマイズしたシステムを構築する。そのうえで現場への説明資料を用意したり、業務フローを回すためのヒアリングを行なったり、店長向けの活用マニュアルなども作成する。
 しかし、同社の本領はそこから先だ。同社がシステムの運用から、来店サンクスメールや記念日DMといった販促企画を提案・実施。導入店舗は活動内容と効果をまとめた年2回のレポートを評価する(別途有料)。つまりPDCAサイクルのうち、アクティブ・メディアがPLAN、DO、ACTIONを担当し、導入店舗はCheckを行なうという流れだ。
「PDCAサイクルを回していくことで初めて、長期的な効果につながる。当社はそのためのビジネスパートナーという位置づけだ」

3.プラスαの相談にも対応 確実な成果につなげる

当初は顧客台帳システムのPDCAサイクルを回すところまでというケースが多かったが、その効果を実感してからは、「POSデータの分析をしたい」「(宅配など)新規事業を考えているが、サポートしてもらえないか」といった相談を持ちかけられることも増えたという。
 こうした場合、同社では成功報酬として、収益の一定割合を受け取る契約を結ぶことになるが、最近では、システム導入に劣らない規模の利益になっているという。つまり、コンサルティングによる効果がそれだけ高いということだ。
 いま世の中には、流行のSNSを活用した集客ツールがあふれている。スマホアプリが主流になり、手軽に導入できるとあって、中小規模の飲食店をはじめとしたサービス業での利用も増えている。しかし、そうしたなかにあっても、自社独自のシステムを構築するアクティブ・メディアに移行するところが少なくないという。
「当社でも流行りのITメディアを用いた新規顧客獲得の提案は行なっている。しかしその場合でも、自社サイトやスマホアプリ、顧客台帳を構築するという前提だ。いくら手軽とはいえ、他社が提供するプラットフォームに依存しすぎると、万一のこと(サービスの休止)があれば、それまでの苦労が水の泡となる」
 ここ数年のITの進化は、過去と比べ物にならないほどのスピードだ。今日の流行が明日には時代遅れとなることもある。だからこそ、5年後、10年後にも、現在の優良顧客に利用し続けてもらうには、自社で顧客台帳をしっかり管理しておくことが肝要だ。
 火事が多かった江戸の時代、商家では家から逃げ出すときには、大福帳(当時の顧客台帳)を水に濡らして持ち出したという。それさえ手元にあれば、どこでも商売をやり直せるからだ。
 流行りのメディアを使い新規顧客の獲得に走るところが多い飲食業界にあって、顧客台帳を武器にする戦いを挑めば、どちらに勝機があるか。磯島が「(飲食業界は)ブルーオーシャンだ」と語る真意がそこにある。

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