アース製薬株式会社 川端克宜

Guest Profile

川端克宜(かわばた・かつのり)

1971年生まれ。近畿大学商経学部卒業。94年にアース製薬入社、役員待遇営業本部大阪支店長、取締役ガーデニング戦略本部長などを経て2014年から現職。

特集コミュニケーションとは「説明」。伝わらなければ意味がない。

1.――2014年に40代前半という若さで取締役から社長に抜擢されました。伝統ある会社では異例の人事でした。

私は当時42歳でした。当社は1892年創業で120年を超える歴史があります。おっしゃられる通り一般的に古い会社ほど保守的な傾向がありますが、大塚達也会長(前社長)は変化の必要性を強く認識していました。変革を進めなければ生き残れないという危機感です。ただ社内には大塚グループの企業として大塚家が世襲するものだという空気がありました。

2.――社長に指名されたときはどんなお気持ちでしたか。

ビックリしたというのが率直なところです。会長から話があったのは、週末の休日のゴルフ帰りでした。運転手として急に呼ばれたのです。パーティー会場のホテル内にある喫茶店で、会長がケーキをパクパク食べながら、「君は入社何年や」「仕事はどうだ」「東京に転勤できるか」などと聞かれました。それで「川端、次の社長はお前にやってもらおうと思う」と言われた。本当にビックリしたので、言葉が出なくて、「ハァ?」みたいな感じで答えたのが、会長には「ハイ」と聞こえたようです(笑)。それで喜んで、「そうか受けてくれるか」となった。すでに大塚家や常務以上の役員には根回しが終わっていて、バックアップ体制は整えてあるから心配はいらんと言われました。

3.――一人になっていろいろ思いが巡ったのではないですか。

もちろん不安もありましたが、やれるという気持ちのほうが強かったですね。というのは、支店長クラス以上の管理職になると、自分ひとりできることは限られており、チームワークが大事になることを痛感していました。ですから20人の組織でも、100人、1000人でも同じだと。いままで通りの運営でいければやれるなと。

4.――最初に手をつけようと考えられたのは何ですか。

海外事業の強化です。当社は虫ケア用品(家庭用殺虫剤・防虫剤)で国内シェア約58%のトップです。私に課せられたのは次世代の成長戦略をどう描くかということでしたので、まず海外展開に力を入れることにしました。もともとタイには現地法人があり、タイを中心にASEAN(東南アジア諸国連合)に進出しています。熱帯で害虫が多い地域ですし、経済発展で中間層や富裕層が増えておりニーズが高まっています。現在進めている中期経営計画(18~20年の3ヵ年)でも、海外事業を「一丁目一番地」と位置づけています。売上げも着実に伸びています。
 ただ、海外重視といっても、会社全体に大きな影響を与えないレベルの適正規模を維持することが大事だと考えています。国際市場では政治問題や為替変動など自社でコントロールできない事態が発生する懸念があるからです。そういう規模感が私の考える海外事業です。

5.――川端社長はチームワークを重視し、コミュニケーションを大切にしているとお聞きしています。

17年に会社のスローガンを改定し、「アースバリュー」として〝全員参画〟〝コミュニケーション〟〝人がすべて〟の3つを掲げました。
 安倍晋三首相の「全員野球内閣」ではないですが、私も社長に就任した当初から全員野球でやっていこうということで、そのためには社内コミュニケーションが一番大事だと常々言っています。コミュニケーションの大切さは社員もわかっているはずですが、何か失敗が起きると、その原因はコミュニケーション不足にあったという報告書がいまだに上がってきます。私の言うコミュニケーションとは「説明」です。自分の意見と違っていても、なぜなのかという納得感が大事で、「言いましたよ」といっても、伝わっていなければ意味がない。ですからコミュニケーションの重要性についてはしつこく徹底して話しています。

6.――17年に策定された「アースポリシー」では〝お客様目線による市場創造〟を打ち出されています。

新製品の開発では社内でさまざまな議論がなされますが、ともすればお客様の視点が置き去りにされることがあります。
 極端な話、いま一般に販売されている虫ケア用品で、ハエや蚊が死なない製品はありません。どのメーカーでも。蚊が死ぬのが0・03秒早くなったとして、お客様はそれほど気にするのかという話です。
 もちろん製品の改善、機能向上は大事ですが、当社は同時にレバーの操作性や持ちやすさ、パッケージデザインなどの改良にも力を入れています。たとえば、今年の新商品「ハエ・蚊用エアゾール」は、従来品に比べワンプッシュでエアゾールが強く吹き出すように改良しました。

7.――メーカーはどうしても中身を重視します。それは当然ですが、操作性やパッケージを見直すというのは新しい発想ですね。

中身には絶対に自信を持っています。ただそればかりではどうか。いまの時代、世の中にはモノがあふれていますから、画期的商品でホームランばかりを狙うのはなかなか難しい。あくなき研究は大事ですが、別の視点で改良を加えるなどしてセーフティバントでも何でもとにかく塁に出る。そしてヒットをコツコツ積み重ねながら点数を取っていく中で、ホームランも生まれるのではないかと考えています。

8.――そうした取り組みが奏功し、社長に就任されて以来、増収を続けていますね。

利益に関しては減益の年もありますが、海外事業をはじめ長期的戦略に基づいてさまざまな投資を行なっているため想定内です。社長に指名されたとき、大塚会長には10年のスパンでやれといわれました。毎期の収益はもちろん大事ですが、次のステージに向けて何ができるのか、さらに次期社長に何を引き継げるのかを考えながら経営にあたっています。

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