株式会社ジュポンインターナショナル 上岡淑郎

Guest Profile

上岡 淑郎(かみおか・よしお)

1959年生まれ。國學院大学卒業後、大学職員(産能大)を経て、90年ジュポングループ代表就任。92年当時では珍しかった無添加やオーガニック化粧品の開発に着手し、その後特許を取得。95年よりOEM生産を開始、増収増益のビジネスモデルを構築した。現在、無添加・オーガニック化粧品が売上げの75%以上を占めている。

特集モチベーション重視の筋肉質経営で 「自ら考え結果を残す」人材を育てる

1.再生の救世主として 社長の任を負う

ここ数年、化粧品業界はインバウンド(訪日外国人)需要で賑わっている。多くの化粧品会社からOEMを請け負うジュポンインターナショナルにとっても絶好の追い風、生産が追い付かないほどの状況だが、新工場の増設には慎重な態度を崩さない。美容室やエステサロン向けに、天然成分配合の化粧品「ジュポン化粧品」を自社ブランドとして持っているということもあるが、1990年から30年近く、同社社長を務めてきた上岡淑郎の経験から導き出された結論だ。
 上岡が社長を拝命したとき、同社の経営はかなり危ない状態だった。そんななかコンサルタントとしての手腕を買われ、同社再生の切り札として送り込まれたのだ。
 ところが、「いざ現場に入ってみると、びっくりするようなことばかりだった」と当時を振り返る。
 当時の本社工場は、グループ子会社に卸売という形式だったため、市場の競争原理が機能せず、「売上げが悪いのは、販売子会社のせい」という考え方が染みついていた。自分たちで売上げを作っていこうという考え方がまったくなく、20年以上働いている製品開発の研究員が顧客と一度も話したことがないということも衝撃的であった。
 だが上岡は、これらのことを当人たちの問題ではなく、そういう環境を作っていた会社側の問題と考え、少しずつ環境を変えていった。大きな転機となったのが、無添加・オーガニック化粧品の開発に成功しOEM生産を始めたことだ。グループ内の取引のみであったものが、創業以来初めて、同業他社と競争することになったからである。研究員の中からも「日本で一番顧客に近い研究所」を目指そうという声が出てきた。
 資金繰りに窮していた同社だが、こうした施策等により、銀行融資を取り付け、事業も再生、創業以来の最大の売上げを達成するまでに回復していった。上岡はこの勢いにも任せ、積極投資により「OEMで日本一、売上げ100億円を目指す」という大目標を掲げる。本社工場に加え、宇都宮工場、千葉工場、館林工場のいずれもがフル生産であった。
 ところが、そのタイミングで新たな試練が同社を襲う。2008年のリーマンショックの影響を受けた金融機関が、融資の早期返済を迫ってきたのだ。同社の業績に変わりがないにもかかわらずだ。売上げ100億円の計画は頓挫。そればかりか会社の進むべき方向さえ改めねばならなかった。
 以降、売上げ規模を追う経営を改め、館林工場を売却し、転換を図った。現在、経常利益ではピーク時を上回る状況で安定的に推移している。このときの経験から、上岡は積極的な投資には慎重になった。
 上岡自身「いまになって思うことだが、経営というのは、リーマンショックのようなピンチも含めてのものであり、たまたま運が悪かった、イレギュラーなことが起きた、などと言っていては会社経営が成り立たない。外部環境の変化に対応していくのが、本来の経営」と考えている。

2.開発部門、本社事務所に 顧客本位の思いが根付く

ジュポンインターナショナルは、この約30年で、経営数字に直接現れない部分でも大きく変わった。
 研究室とOEM事業部を隣り合わせに配置したことにより、研究員が顧客と直接電話する機会も増え、お客様の声がスピーディーに反映されるようになった。さらにOEM事業を始めたことで研究開発の幅が拡がり、研究員一人ひとりのモチベーションも大きく上がった。
 愛社精神も、知らず知らずのうちに育まれている。
「当社にはフットサル部があり、創部3年目であるが、社名の入ったおそろいのウェアで女性社員が大挙して応援に行ったこともあり、前年は化粧品業界3位の成績であった。また、将棋部は過去3度の全国大会で優勝をしており、強豪会社として全国に知れ渡っている」
 本社事務所では、顧客からの電話問合せ、来客時の接客、総務などに女性7人体制で対応する。全員が化粧品業界と関係のない職種・業界からの転職だが、業務マニュアル的なものはない。「商品のみならず接客や電話応対含めた総合的品質向上」という共通テーマがあり、評判は良い。
「自分の言葉で、製品の特長を伝えられるから、わかりやすいし、お客様の共感も得やすい。こうしたお客様への対応が、当社製品の品質を支えている」
 30年の年月を経ているとはいえ、「売れないのは販売子会社のせい」などと言ってた会社と、同じ会社だとは思えない変貌ぶりだ。
 上岡は実力があれば、若手の思い切った登用も行なってきた。子会社に通販会社があるが、20代後半の若手を社長にすえ、当初の2年間、鍛えに鍛えた。その期待に応え、上岡の片腕と呼ばれるレベルに育っている。

3.モチベーション維持が 会社成長には欠かせない

組織を率いるうえでの最大の課題は、構成メンバーのモチベーションにある、と上岡は言う。
 適性の合った有能な人材が高いモチベーションを維持していけば、会社が大きく発展していくことは必然的である。
 人材育成については中長期で考えており、前職が何であれ、とくには問わない。
「未経験でも、適性、能力があれば、当社で2、3年経験することにより、業界で育った人間を上回る成長ができる」と考えている。
 いまの日本はあらゆる業界で人手不足が騒がれ、圧倒的な売り手市場になっている。とくに若手の採用となると、大手、安定志向が強く、いかに優良企業であっても、中小の場合、採用は難しいと言われている。
 しかし、上岡の考え方は少々、違う。
「当社に適性ある、能力の高い人は必ずいる。これまでの2倍の人に会っていこう」
 次代を担う人材の発掘のため、ジュポンインターナショナルは人的投資に惜しむところがない。

TO PAGE TOP