健康コーポレーション株式会社 瀬戸 健

Guest Profile

瀬戸 健(せと たけし)

1978年5月生まれ。2003年健康コーポレーションを設立、06年、札幌証券取引所アンビシャス上場を果たす。M&Aにも積極的で、現在十数社のグループ会社を擁する。

特集社員個人にスポットが当たる仕組みで「社員の喜ぶ経験」を顧客の喜びにつながる

1.全国の企業を行脚し自らに足りないものを探す

 お笑い芸人のスギちゃんとともに「たった2ヵ月で–15㎏達成、痩せたいならRIZAP(ライザップ)」とインパクトのあるメッセージを掲げたライザップというプライベートジムの広告を見かけたことがあるだろう。これが大人気ですでに顧客2300人。短期集中コースで29万8000円の料金にもかかわらず、予約待ちという盛況である。このライザップを運営するのが健康コーポレーションだ。

 同社は年間約100億円を売り上げる『豆乳クッキーダイエット』や『どろ豆乳石鹸どろあわわ』など多数のヒット商品を抱え、2003年の設立から3年で札幌証券取引所アンビシャスに上場した急成長企業である。

 11年目を迎える今期は200億円以上の売上げを見込む。そんな確かな成長を見せる企業を支えているのは「人」だ。

 同社には社長室がない。それどころか、朝くじ引きをして席を決める、いわゆるフリーアドレス制を導入しているため、社長も役員も社員も、部署も役職も隔たりがない。

 同社社長、瀬戸健は「毎回違う人と話ができるため自然に部門を超えた横のつながりが生まれる」と説明する。

「親しき仲にも礼儀ありではないですが、自然に気遣いを忘れないようにする」(瀬戸)のだ。

 そうした効果の賜物か、社内の雰囲気は格段に明るい。

「しかし元はとても暗い企業でした」と瀬戸は振り返る。そして「私が自分に自信がなかったから」と述懐する。

 同社は設立から上場までが早かったため、ヘッドハンティングやM&Aで大企業の幹部だった人材を採用し、役員や幹部に登用した。これが経営陣と現場との軋轢を生み、求心力を一時失ってしまったのだ。

 上場した直後に業績が下り坂となったことも拍車をかけた。

 そんななかで、ある社員から「社長に自信がなくなってしまっても、僕たちが全力で社長を支えますから」と言われる。その言葉に瀬戸は「自分は間違っていた。自分自身を変えたい」と思い、会社の変革に着手する。

 自分たちに足りないものを探すため、社長自ら幹部とともに全国の企業を回った。実際にそれぞれの企業の朝礼や研修に参加した。そこで見つけたものの一つに「感謝の朝礼」があった。朝礼のときに、一人ひとりが誰かしらに感謝を伝えるもので「うちでもやろう」と瀬戸はすぐさま実行に移す。初めは社員もしらけていたが、瀬戸はとにかくやり続けた。少しもぶれることのない姿勢に、社員もホンキになって取り組み始める。

 毎月開催している社員の誕生会も、同じような流れで始まったものだ。家族にインタビューしたり、本人のドキュメンタリー映像をつくるなど本格的で、心のこもった演出を行なう。企画づくりは社員の持ち回り制で、前月誕生日の社員が今月の企画を担当する。業務時間に集まって企画を考えるのもOKだ。誕生会で同僚や家族への感謝を述べ、涙する社員も多いという。

2.一人あたり研修費は一部上場企業の10倍以上

 こうした社員を大切にする仕組みは新しい事業の展開にプラスに働いている。新事業プライベートジム「ライザップ」がそれだ。この事業、冒頭に紹介したように単価が高いにもかかわらず、目覚ましい実績と高い評価を得ている。しかもこの事業、驚くべきことに店長も含め大半が非正規社員で運営されているのである。普通なら、事業自体がうまくいかないと思われがちだが、そうでないことはこの実績を見てもよくわかる。

 これを実現させているのが、毎月1回全店舗を休業し、全国からスタッフを集めて行なう研修である。この研修の目的はひとえにスタッフの質の向上。生理学、栄養学などからコミュニケーション力まで徹底的に教える。いや、鍛える。ただし、それだけではない。仕事に対しての誇りややりがいをしっかりと持ってもらうために、常にスタッフの一人ひとりに焦点を当てクローズアップするのだ。たとえば一人のトレーナーの一日を映像で追う。朝起きて身支度するところから始まり、自分がライザップにどういう思いで働いているかなどを映像にまとめたもので、さながらテレビのドキュメンタリーである。スタッフは、その人の一生懸命努力している姿や思いを通して、自分がどう向き合うべきかを見つける。ここで生まれた誇りは仕事をプロフェッショナルなものへと高めていく。

 こうした結果が非正規社員中心の運営であっても、顧客からの高い評価につながっているのだ。

 同社の教育熱心さはひとえに「人を大切にする」精神から生まれている。たとえば教育費においても然り。一部上場企業が一人当たりの社員にかける研修費が平均3万円のところ、同社は何十万円もかけているのだ。

「よくパレートの法則に基づいて上位2割の人材を育成することが重視されるが、私は会社の一番下の能力が会社の能力だと思う。だから現場の中心である下の8割を重視します」という瀬戸の言葉がすべてを物語っている。

 現場スタッフに限らず「自分はこの会社にいる意味があるのか?」などと悩み出す社員は少なくない。そうしたときに「こんなに意味があるじゃないか」と伝えるのが同社であり、それは誕生会や研修のほか、機会あるごとに社員個人にスポットを当てる同社のヒト戦略にほかならない。

「喜ばせることができる人は、喜んだ経験がある人」(瀬戸)である。

 5年後に売上げ2000億円、経常利益10%を目指すという瀬戸は社員一人ひとりに心を配りながら、今日もどこかで誰かの「健康」の手助けをする。

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