株式会社walkntalk 端羽英子

Guest Profile

端羽 英子(はしば・えいこ)

2001年東京大学経済学部卒業。ゴールドマン・サックス証券投資銀行部門で企業ファイナンスを担当、アメリカ公認会計士資格取得。日本ロレアルで『ヘレナルビンスタイン』の予算立案・管理を経験。夫の留学に伴い渡米し、マサチューセッツ工科大学でMBA取得。帰国後、投資ファンド、ユニゾン・キャピタルで企業投資に携わる。
2012年3月walkntalkを設立。

特集"その道の専門家”としての知見を共有 ナレッジ流通ビジネスとして日本に根づかせる

1.必要なときに必要なだけ専門知識やノウハウを聞く

  デザイナーやエンジニアといった、ある種のスキルをクラウドソーシングするサービスはこれまでもあった。しかし、ビジネスのナレッジ(知識や情報)をクラウドソーシングするサービスは、日本ではあまり聞いたことがない。

 2012年設立のwalkntalkが運営する「ビザスク」は、さまざまな仕事の悩みに対して適切なアドバイスができる人をインターネット上で紹介する、ビジネスナレッジのクラウドソーシングサービスだ。企業や法人組織には経営上のアドバイスをする顧問を抱えているところも少なくない。その場合、大手企業OB、専門知識や経験をもつ見識ある人、あるいはコンサルティングファームと〝一定期間の顧問契約〟を結ぶのが一般的だが、この〝一定期間の顧問契約〟を、必要なときにその専門分野の人の知識や情報を必要な分だけ聞けるようにしたものがビザスクなのだ。

「現在、アドバイザー登録は約1700人。大企業の幹部や一般社員、ベンチャー企業の経営者など、さまざまな肩書きをもった〝その道の専門家〟の方です」(代表取締役・端羽英子さん)

 利用する側のニーズはといえば、たとえば、「パワー半導体の、今後のアジアでの展開について聞きたい」や「お客様から預かっている資産に相続が発生したが、それが外国の方で戸籍が確認できない。どうしたらいいのか」など具体的だが、多種多様、バラエティーに富む。

「それでも、聞きたいことを具体的に言ってもらえれば、『あ、それならやったことがある』という人が、9割以上の確率で見つかります。必要な人に、知識や情報をもっている人の話を聞けるようにマッチングできる」

2.娘の受験準備を契機に起業に踏み切る

 アメリカではビザスクのようなサービスは、すでにビジネスシーンで欠かせない大きなサービスサイトとして存在している。「エキスパート・ネットワーク」はその最たるものだ。が、日本ではまだあまり知られていない。「日本人は自分が(特定の分野の)エキスパートですとは言わない」(端羽さん)からだ。こうしたサービスに端羽さんが出会うに至るには、彼女のキャリアが大きく影響している。

 端羽さんは東京大学在学中に結婚。大学卒業後に入社したゴールドマン・サックスを出産のためにわずか1年で退社した。その後、アメリカの公認会計士資格を取得し日本ロレアル社に入社。そこで化粧品ブランド「ヘレナルビンスタイン」の予算立案・管理を経験する。約1年後、夫の留学先(ボストン)に子どもとともに同行。そこでMITのビジネススクールに通ってMBAを取得。そして離婚。起業を意識したのもそのころだった。

「私自身のキャリアが飛び飛びで、サラリーマン社会で出世できる気がしない。それだったら自分で職歴を作ろう。ビジネスを立ち上げようと思ったわけです」

 そして将来の起業を思い「経営に一番近い仕事ができる」と考えて入社したのが、投資ファンドのユニゾン・キャピタルだった。そこで5年間、企業の再成長を支援するビジネスをみっちりと学んだ。

 端羽さんが35歳になる頃、本格的な転機を迎える。一人娘がそろそろ中学受験の準備を始めなくてはならない時期になったのだ。娘の存在が、会社を辞めるタイミングを決めた。

3.自分の起業経験を活かしビジネスモデルとして構築

 投資ファンドの世界にどっぷり浸かる日々の中で思ったことがある。

「日本ではビジネスに〝芽〟が出始めると銀行がお金を貸してくれる。でも、そこに至るまでに本当に必要なお金はもちろん、情報、ノウハウ、人脈はなかなか手に入らない。『なぜ、これを直接人に聞けないのだろう』。このことに問題があるのではないか」

 これが、キャリアを積んだ金融分野でなく、情報流通業としての新しいビジネスを作りたいと思った理由だ。

 起業を決意し、「どんなことをしたらいいのか」、いろんな人にアドバイスを聞いて回るが、当たり前だが、そうそう的確なアドバイスをくれる人はいない。

「人づてにたどって、ようやく素晴らしいアドバイスをしてくれる人に巡り会いました。アイディアを出しては、厳しいダメ出しをされ……の繰り返し。でも、その方の経験をフィードバックしていただいたことが、すごく有用だった」

 こうした実体験がビザスクの原型になった。しかしすぐには本格稼働という状況に至らなかった。

「私が経験を積んだ金融の世界では〝完璧〟が当然。そうでないものを人前に出すのは恥ずかしいことだという思いがありました。でも、ベンチャーは違う。完璧じゃなくても人前にさらし、フィードバックをもらい、さらに工夫をする。そうやってビジネスとしての完成度を高めていくもの」

 そう気づくまでに少し時間がかかったからだ。本格的に動き出すと、仕事の仲間も集まってきた。

 ネット上で完結させる簡易型のマッチングビジネスではないという点も同社の信頼を高めている。

 個人間のやり取りの場合は、マッチングしたらサイト上でメッセージをやり取りし、電話にするか実際に会うかなどのミーティングの詳細を決める。一方、企業間の場合は「ビザスク」が仲介役を果たし、ミーティングを設定する。初回は30分から1時間程度(電話あるいは実際の面談)、 利用料金は個人間の取引きではアドバイス1時間につき3000円~、企業間では1万5000円~。そのうち約3割を同社が手数料として受け取り、残りをアドバイザーおよび紹介者が受け取る仕組みになっている。

「1つの案件で2、3人の方にお話を聞くようにお勧めしています。アドバイザーの方がいくら経験豊富だとしても、1人の話だけでは心もとない。しかし、最低3人から話を聞くことができれば、自然と傾向が見えてきます」

 この日本には、まだまだ「自分はこの分野のエキスパートだ」と人前で言い切れる人は少ない。しかし、このビザスクを利用するビジネスパーソン、経営者が増えていけば、自身の潜在的な“その道の専門家”としての素養にも気づくはず。そうなれば、ビザスクの魅力はますます高まる。日本の「エキスパート・ネットワーク」が生まれる日もそう遠い話ではない。

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