マーケット創造に挑む!女性経営者たち

Guest Profile

女性経営者たち

●一般社団法人日本ワーキングママ協会 代表理事 大洲 早生李 氏 (おおす・さおり) 慶應義塾大学卒業後、日立製作所に入社。営業、宣伝、広報と渡り歩く。4年半の単身赴任生活を送った後、2008年に双子を妊娠し、退職。その体験から「なぜ、妊娠・出産を経ると辞めざるを得なくなるのか」という問題意識のもと、働くママ支援プロジェクト『キラきゃりママ』を立ち上げる。直後に第三子を出産。同時に株式会社グローバルステージを設立。13年秋にママのためのセカンドキャリア支援ビジネススクール『東京ワーキングママ大学』を設立。 ●ママスタート・クラブ 代表 矢上 清乃 氏 (やがみ・きよの) 南山大学経営学部卒業後、金融情報サービス会社等を経て2000年から2年間米国テキサス州立Austin校に留学しMBA 取得。帰国後、日本IBMにてコンサルティング業務に従事、08年長男を出産、育休中にママスタート・クラブを立ち上げる。10年末に日本IBMを退職しNPO活動に専念。日本ワーキングママ協会へも理事として参画。13年6月、託児付きコミュニティスペース『学び舎mom』運営の株式会社グローバルママ・ゲートウェイを創業。 ●株式会社クロスインフィニティ・マネジメント 代表取締役 遠矢 由香 氏 (とおや・ゆか) 鹿児島県生まれ。山口県立大学社会福祉学部卒業。県庁での勤務を経て、上京。人材紹介会社で専門職や管理職の人材紹介に従事した後、2004年6月、クロスインフィニティ・マネジメント設立、代表取締役に就任。経営の根幹となる管理部門(経理財務・人事総務・法務・経営企画、監査役、社外取締役等)の職種に特化した人材紹介事業を展開。IPO準備中の企業や上場企業を中心に、強い組織構築に必要となる管理部門の人材紹介に取組んでいる。

特集ママが活躍できる社会とベンチャーの人材育成

1.企業を巻き込むワーキングママの育成

<戸田>
 私どもの顧問先の女性の経営者の方、男性経営者のもとで働く女性を見ていると、女性の社会進出が増えているとはいえ、難しいところも多いようです。出産を控えていればハードワークについていけなくなり、会社との間でミスマッチが生じることもあるとよく聞きます。
 皆さんには経営者、管理者として女性の活用を今後どうしていこうと考えているのかをうかがいたいです。

<大洲>
 私たちは2013年9月に、日本ワーキングママ協会を起ち上げました。
 社会人がキャリアアップを目指す際にMBAを取りに行ったりしますが、ワーキングマザーでそこまでやれる人はなかなかいません。また、会社の研修制度を見ると、時短勤務の人は資格がない等の規則があったりして、スキルアップをする機会すらなかなか望めない。
 実際に〝マミートラック〞という言葉があります。子育てをしている母親はキャリアップできない、つまり、仕事と子育ての両立はできるも
のの、昇進・昇格とは縁遠いキャリアコースのことを指している言葉です。「子育てママはキャリアアップできないなんておかしい。なんとか状況を変えたい」と考え、女性たちが学び、つながれる空間を〝リアルな場所〞でということで、ママのための子連れで通えるビジネススクールを起ち上げたのです。それが『東京ワーキングママ大学』です。
 ビジネス、ライフ、子育てなどをテーマにした、ママのスキルアップに特化したオープンカレッジ(受講料1回3500円)のほか、リーダーとしてビジネスの最前線で活躍できるスキルを学ぶ「ウーマンリーダーコース」、子育てしながら、無理なく起業するためのスキルを習得する「ママ・プレナー・コース」を用意しています。
 企業様からもご理解を得やすいだろうということで、講座は土日や祝日などの休日に行なっています。会場については、企業様からも活動への理解・賛同を得たいとの思いから、企業様の会議室などをお借りしています。

<戸田>
 会社のサポートがあって参加される方もいるのですか。

<矢上>
 まだ個人で参加される方のほうが多いのですが、1〜2割は企業様の補助を自分で取り付けてこられます。「いいトレーニングになるから」と、企業様のほうで、長期コースを申し込まれることもあります。

<小名木>
 卒業生の中で、実際のキャリアップに役立ったという例はあるのですか?

<大洲>
 ウーマンリーダーコースの卒業生の方で、その後、独立起業された人がいます。私どもは、女性のリーダーシップ育成にコミットしていますが、必ずしも、組織の中でのリーダーシップに限定しているわけではありません。社会全体の中でリーダーシップを発揮できる環境が整えばと思います。

<矢上>
 上司から「目の色が変わったね」といったフィードバックがあって、それをきっかけに管理職の登用試験にチャレンジしたという話はよく聞きます。そうしたケースも含め、いろいろな意味で人生が変わったということをうかがうことも多く、それがスタッフたちの励みになっています。

2.ベンチャー企業で 女性が働くことの難しさ

<小名木>
 独立していく人が、元の会社に限界を感じるというのは具体的にどんなことでしょう。

<大洲>
 大手企業に在籍する方は、組織内で融通がきかないとか、年齢を重ねないと管理職になかなかなれないとか、こちらに来て、同じワーキングウーマンでも、会社が違えば思うようにならないことのレベルが違うということに気づくこともあります。
 自分に何らかの意思があって「こうしたい」とやりたいことを伝えても、男性管理職の壁にぶちあたったりします。男女の違いはどうしてもあるので、男性管理職を説得する女性側も論理構成を考えてから臨んだり、工夫が必要かもしれません。本人に情熱があっても、それが管理職の心に刺さらなければ意味がないのですが、説得に失敗したりすると、それでやる気をなくしてしまいます。
 そういったことを打開するためにも、女性管理職が増えた方がいい。世の中に30%くらいは女性管理職がいないと、意思決定レベル手前で握りつぶされます。そのレベルをクリアして初めて、会社組織の中で、女性のリーダーシップが理解されるのかもしれません。

<戸田>
 確かに女性の起業家は増えていますが、女性の管理職は少ないですね。それに、大手企業よりむしろベンチャーの方が少ないのではないかと思います。

<大洲>
 ベンチャーの場合、上に立つ人は一人で何役もこなさなくてはならないから、そもそもその時間関係なしにコミットを求められる働き方が女性のニーズと合わないのかもしれません。

<小名木>
 大企業の方が、福利厚生の制度がしっかりしているということもあるでしょうね。また、成長期にあるベンチャーはみんなが常時フルパワーでやらなければならないことが多く、お子さんができるとそうした会社の働き方と合致しなくなる。「それなら、自分のペースでやろう」ということになるのかもしれない。

<遠矢>
 私は以前ベンチャーで働いていたのですが、男性が圧倒的に多くて、女性が認めてもらうには男性以上に成果を出さないとダメで、男性以上に働くことを要求されているように感じていました。そして「男性はそれが当たり前と思っている」と、女性のほうでは思い込んでいる。そんな理不尽な働き方を、「日本の会社とは、そういうものなのか」と思いながらも、認められたいからやってしまう。それが多くのベンチャーの体質ではないかと思います。

3.まだまだ理解されていない「ママでも働きたい」の本音

<大洲>
 ベンチャーでも大企業でも同じですが、女性の活躍に対してトップの理解があるかどうかです。トップのコミットメントが本気かどうかはすぐに従業員に伝わります。「世の中で流行っているから」とか、「経済団体からの圧力で」という姿勢だと、女性が活躍する社会は進まないし、変わらないです。
 一方、女性自身も、女性が活躍しなくてもよかった長年の企業環境や風土に慣れているので、会議の席で発言を求められているのは男性だけということに疑問を抱かない。そこに自分たちがなぜ入れないのだろうとは思わないのです。だから改善もない。一向に改善が進まないのは、もしかしたらそうした女性側の意識も大きいのかもしれないですね。

<矢上>
 女性は育休中に家事と育児の全てを担い、夫の日常は何も変わらない。ほとんどの場合、そのまま育休があけて会社に復帰するので、家庭内の仕事のバランスが大変なことになる。会社内に止まらず、夫、自分の実家、夫の実家、それを一つひとつ説得しなければならないから、それだけで疲れ果ててしまうということもあります。

<大洲>
 女性たちこそ、周りを巻き込みながら働き方を変えなくてはいけないと思います。でもその概念がないので、いままでと同じようにやろうと頑張ってしまう。それでは無理が生じます。

<遠矢>
 転職という面から見ると、お子さんを抱えて時短で働いている方の場合、意識の部分ではっきりと分かれています。「短い時間でも、とりあえず働き続けられればいい」という方と、もっと活躍したいと考えている方です。
 転職の受け入れ先のほうでは、「とりあえず働ければいい」というイメージがまだまだ強いようで、そういう意識が残っていると、「仕事を任せる」という方向には進んでいきません。「ママでも働きたい」という人の意識の持ち方は、現実には受け入れる側にはなかなかわからない部分ではないかと思います。
 「女性活用」と声高に言われ、「女性には活躍してもらいたいんだ」という感情論的な部分ばかりが先行し、実際には実態を伴わないことがほとんどです。転職の受け入れ側の現場を見ても、「女性が働いていると、会社のイメージがいいから」という理由で採用しているんじゃないか、と思わずにいられないところも、まだまだあります。

<矢上>
 中小企業やベンチャーがママさんを採用する理由には、大きく分けて「人件費が安くすむから」というケースと、「たまたまブランクがあったけれども、実績や経験を重んじた」という2パターンがあります。ワーキングマザーとして働く側にしてみれば、そこで働く理由は単に時給ではない。短期間のインターンでも、その後の待遇がパートだったとしても、「会社から期待される」等のやりがいがあることも大きな意味を持ちます。
 経営者の方自身が「どうやって女性を生かし、評価していくのか」、性根を入れて考えていくことが必要なのではないかと思います。


※この座談会は2017年4月25日に行なわれたものです。

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