株式会社アークテック 喜多 一

Guest Profile

喜多 一(きた・はじめ)

1959年生まれ。京都産業大学外国学部を卒業後、PCO(プロフェッショナル・コングレス・オーガナイザー)として、国際会議エージェント、総合メディアグループ企業で政府間交渉、産業・学術に関する国際団体や民間企業など多岐にわたる国際コンベンションの事務局を代行し、統括プロデュースする業務をメインに新規ビジネス企画やビジネスコンサルティングを担当。その後、広告プロダクションの取締役を経て、知人が立ち上げたITベンチャーの副社長としてマーケティング、海外製品の国内導入、技術教育、新規事業開発を担当する。2009年に株式会社アークテックに入社。15年、代表取締役に就任。現在、IoT検定制度委員会委員として日本国内のIoT技術者の育成、IoTに関するコンサルティング活動、講演活動等でも精力的に活動中。

特集健診データ収集システムのナンバーワン 日本のIoTを牽引する リーディングカンパニーへ

1.「メタボ健診」を契機に 成長ビジネスとして開花

2008年から特定健診・特定保健指導が始まった。一般には「メタボ健診」というほうがわかりやすいが、40歳~74歳までの公的医療保険(国民健康保険等)加入者全員を対象にした保健制度だ。これを境に安定成長ビジネスへと花開いたのが、健康診断や人間ドックで、各測定機器の数値データを収集し基幹システムに転送するパッケージソフト『けんしんくん』と『じゅんかいくん』だ。
 この健診データ収集システムは、日々、忙殺されていた健康管理センターの「効率的に業務ができたら」という強いニーズに応えるため、アークテックの創業者、遠山正一郎氏が日本で先駆けて開発、提供を開始したサービス。
 従来、医師や看護師が手入力していた作業を省くことで、人為的ミスをなくすとともに、健診の効率化をサポートするというものだが、「人間ドックや健康管理センターは極めて保守的な世界であり、安全性が担保されなければ、先進的なものの導入は進まない傾向が強かった」(喜多一社長)
 そのため、同社では経営を安定させるため、創業2年目から、請負や常駐によるシステム開発サービスも走らせていた。いまもこのプロフェッショナルサービスは同社の事業の柱のひとつだ。
 現在、20年以上にわたる健診データ収集システムのパイオニアとしての強みと歴史を背景に、全国数百カ所の人間ドック・健診センターに健診データ収集システムを提供しており、業界シェアはトップだ。同社が開拓したこの市場は、大手のシステムベンダー、コンサルティング会社等も参入、お互いがしのぎを削る競合状態になっているが、健診データ収集システムに専門特化している同社の場合、大手が受注した基幹システムの一部に組み込まれることも少なくないという。
「これまで顧客からの要望にはとことん応えてきた。カスタマイズに対応しながら、新しい技術の取り込みも行ない、顧客ニーズを最適化してきた」

2.エンジニアを質的転換 半分の人員で利益を拡大

同社の売上げの3分の2は、健診サービスによるものだ。
「アークテックは豊富な経験と実績をもとに、顧客のニーズに柔軟に対応し最適なソリューションを提供してくれる」という口コミが、顧客から顧客へと拡がり全国からの引き合いが大幅に増加した。
「売上げ規模だけで見れば、10年前からほぼ横ばいだ。しかし、当時と比べて約半分の従業員で稼いでおり、利益に関しては10年前を上回っている」
 もちろん、そのために一人当たりの労働時間が大幅に増えたというわけではない。一人あたりの月間残業時間は15時間程度であり、この業界としてはすこぶる少ない。人員を増やし頑張って売上げを増大させても、利益ベースでは全体で落とす企業が多いなかで、同社のように生産性を向上させているところはレアケースだ。
 こうした組織としての拡大・成長を実現している要因について、喜多は次のように語る。
「エンジニアたちには、オフショア開発やニアショア開発が主流になる時代に求められるスキルは、『プロジェクト管理』と『品質管理』の二つの管理スキルであることを示し、下流工程であるプログラミングの請負から、上流工程のプロジェクトマネジメントと、品質管理業務を中心に行なうための対応を推進してきた。それを実現するために自らが行動したり、社外の著名エンジニアの力を借りながらスタッフの意識改革やスキルアップを積極的に推進してきた。そうした結果、この10年で、社員たちの振る舞いや意識に大きな変化が現れた。彼ら自身の成長によるところが大きい」
 喜多が創業者からのバトンタッチを受けて社長に就任したのは2015年のことだ。喜多は、09年に同社に入社するまでに、国際会議エージェントでイベントの企画運営、事務局代行、統括プロデュース、新規ビジネス企画やビジネスコンサルティングなどを担当した後、広告プロダクションの取締役やITベンチャーの副社長として、プロジェクトマネジメントや新規事業企画にも携わってきた。そうした豊富なキャリアから培ってきた人脈を生かし、超一流のスーパーエンジニアを社内に呼んで講演してもらったり、仕事上でも社内の人材と直接、接する機会をつくったり、社員にとって、いい刺激になることはなんでもやった。
「圧倒的に優れたエンジニアの仕事を見たり、話を聞いたりすると、見える世界が変わり、自身のスキル向上につながるはずだ」

3.次の柱づくりに向けて 「新中期経営計画」が進行中

アークテックでは、2016年度からの5年間を「新中期経営計画」として策定。「日本のIoTを牽引するリーディングカンパニーになる」を中核ビジョンに、全社一丸となった取り組みをスタートしている。その活動の中心となり、M2M、AI(人工知能)、ロボット、ビッグデータ、クラウド、情報セキュリティ等、最新の要素技術の情報収集と、スキルの向上に努めているのがプロフェッショナルサービスのエンジニアたちだ。
 今後の開発は、プロダクトライフサイクルが短縮化する。その一方でニーズの多様化がどんどん進んでいく。
「これからのエンジニアは、短期間でスマートフォンを新機種に乗り換えていくのと同じように、ひとつの業務、技術に集中するだけでなく、学習の機会を同時につくっていかなければ、次の時代に対応できなくなってしまう。会社としては、ホームラン狙いよりも、どんな時代でも確実にヒットを狙える組織が重要だ」
 同社では14年から新卒採用を再開した。以来、毎年、2人~3人を採用しているが、新卒入社で退職した人材は一人もいない。すでに、「一プログラマー」から、「プロジェクトマネジャークラス」に育っている人材もいるという。
「私は創業社長ではないし、オーナーシップももっていない。経営請負人としてオーナーはもちろん、従業員の未来を考え最良の組織を作り上げることが自身の役割と考えている。今年(19年)でアークテックに来て10年が経つが、次の10年を考えたときに、その次の10年を担っていく人材育成が必要だと感じている。その意味で、現在のメンバーはアークテック史上最強だ」

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