人がやらない面倒くさいことをやり続けてきた結果の成功

「けんすう」という呼び名のほうが馴染み深い人は多いのかもしれない。生活のHow toサイト「nanapi」を運営する株式会社nanapiの代表取締役である古川健介。古川は「けんすう」の名でさまざまな媒体で起業やビジネスについて発信しており、学生起業家からの認知度は高い。


 というのも、古川も大学在学中に起業した身。受験特化の学生向けコミュニティ「ミルクカフェ」を運営。その後、現「したらば掲示板」を運営していた株式会社メディアクリップの代表取締役になり、株式会社ライブドアにサービスの運営権を1億円で譲渡した。


 普通なら1億円入って舞い上がるところだが、古川は違った。


「会社とサービスは作ったものの、このビジネスはこれ以上伸びないと思いました。敗北感ですね」


 そこで、古川はビジネスを学ぶため新卒でリクルートに入社する。


 飲食情報サービスやジョイントベンチャー立ち上げなどに従事する傍ら、2007年12月に株式会社ロケットスタート(現・nanapi)を設立。09年5月に、リクルートを退社した。


 そんななか、エンジェル投資家の小澤隆生から「How toサービスを作りたい」との声があり、数ヵ月後の9月に「nanapi」を始めた。「How to」を馴染みやすい「ライフレシピ」という呼び方に変え、記事ごとの読了時間を数分にするなど、ユーザーの使いやすさを追求。そして、翌年の11月にはグロービス・キャピタル・パートナーズから3億3000万円の資金調達をし、さらに拡大を図った。


 古川は現状をこう振り返る。


「まだまだ成功はしていないと思っています。ただ面倒くさいことをやり続けたからこそ、いまもサービスがある。他にも似たサービスはありましたが、どこもやり続けなかっただけです。そもそも、10個やって1個当たればいいと思って始めました。そうしたら、1個目がまだ続いている」

 

 

向いている人材を採用して配置、教育

 古川は人材に関して「採用7割、配置2割、教育1割」の考えを持つ。これはリクルートの方針でもあり、特に採用の重要性を語った。


「自分より優秀な人材を入れた方がいい。そして、向いている人にやらせた方が、うまくいく。向いているとは、どんな犠牲を払ってもできる人のこと。例えば、マネタイズは自分に向いていないから、向いている人を入れる。逆に、ユーザーを盛り上げることには、自分は向いている。これが『採用』です」


 そして古川は、「会社に所属している意識ではなく、このプロジェクトが好きだからデザイナーとして、プログラマーとして参加している」という考えを大切にする。向いている『配置』を行なうためには、採用側にも意識が必要なのだ。そこで、面接では、仕事以外の時間に何をやっているかを聞く。


「プライベートにデザインをしていないデザイナーはイケていない。本当に好きだから仕事にしている人がいい」


 さらに採用において面接や履歴書よりも前に、人材を見極めるポイントがあるという。それは、希望者のアプローチの仕方だ。


「ソーシャル系のリクルートサービスや直応募からが採用につながるケースが多く、逆に一般的なリクルートサイトからはうまくいかないケースが多い。言い方は悪いですが、公募や紹介会社に登録しちゃうようなレベル感の人だと、つらい。いま、情報感度が高くてイケている人は、人脈があったり、ソーシャルをうまく利用している。人材として自立型であり、向き不向きはあるが、ベンチャーにとっては大切」


 このような『採用』を行なっている訳だが、それは人材が集まりやすい環境を作っているからでもある。1つは会社の透明性だ。


「ブログで情報発信しているので、見てくれている人が多い。社内の動き、知見など社員の給料以外は全部出すぐらいの勢い。情報を共有したほうが、全体にとっていい」


 これにより、社内においてどういうプロジェクトがあり、何ができるかがわかる。『配置』を知ることができるのだ。


 そしてもう1つは、ステップアップできること。


「nanapiを通すことで、他の環境よりも高い成長ができるよう、支援している。『教育』ですね」


 勉強会や、技術者には強制的に毎日1時間の勉強時間を作るなどしている。また、会社のビジョンでもある「できることを増やす」で、いろいろな仕事をさせたりする。


「IT業界だと動きが早すぎるため、3ヵ月から半年前の知見を使っていては話にならない。だからこそ、常に学習し、キャッチアップする体制を作る」


 向いている人を集めることにより社員の定着率は高く、現在は30名の人材が働いている。離職率の高さがベンチャーの悩みの種でもあるのだから、異例だ。しかし、抜けないことも悩みでもあると言う。


「年齢が上がっていきますし、循環が起きなくなる。リクルートは退職率8%をKPI(Key Performance Indicators:重要業績標価指標)にしていた。それくらいは必要ですね。ゆくゆくは、循環させる施策を打つ必要がある」

 

 

常識にとらわれず、変化でユーザーを盛り上げる

 昨年12月にスマートフォンアプリ「アンサー」をリリースした。アプリを通して手軽にQ&Aを行なえるというもので、新たなユーザーを盛り上げる。今後について問うと、「明言できない」と古川は語った。変化の激しい業界において、5年後を明確に見据えることは難しい。


「実は、グロービスの堀義人さん(大株主:編集部注)からも 『1000億や1兆円を稼ぐか、空振りするかどちらか』と言われていて、大穴枠なのです。だから、変化に強いことを武器にやっていきます」


 そして、会社という組織にも言及した。


「最近は会社という形が、そもそも時代に合っていないという考えを持ち始めている。時代として、なかなか継続することはできない。そこで100社ぐらいの人事制度などを調べたが、あまりパターンはなく、それぞれに合った形があるという結論になった。だから、リーダーがすべき、方向性を指し示すことは自分が引き続きやります。ただし、それ以外の部分は任せる

なりしていきたい」

 

 

 

*『CEO社長情報』vol.12掲載

 

|プロフィール

古川健介(ふるかわ・けんすけ)

1981年生まれ。早稲田大学政治経済学部在学中の2000年に学生コミュニティであるミルクカフェを立ち上げ、月間1000万pvの大手サイトに成長させる。04年、レンタル掲示板を運営する株式会社メディアクリップの代表取締役社長に就任。翌年、株式会社ライブドアに「したらば」JBBSを事業譲渡。06年、大学卒業と同時に株式会社リクルートに入社。09年に退職し、「nanapi」を運営する株式会社nanapi代表取締役に就任、現在に至る。