株式会社ソフトハウスコンシェルジュ 樋口悠介

Guest Profile

樋口悠介(ひぐち・ゆうすけ)

IT企業でシステムエンジニア、システムコンサルタントとして経験を重ねた後、フリーランスとして独立。2011年株式会社ソフトハウスコンシェルジュを設立。

特集フルスタックなエンジニアが、 マンツーマン方式で現場指導に徹する

1.設立以来、 エンジニア退職者が皆無の システム開発会社

良い会社とは、どんな会社か――この基本的な問いに、ひとつの答えを出しているのがシステム開発のソフトハウスコンシェルジュである。答えとは、2011年の設立以来、退職したエンジニアがひとりもいないこと。社員にとって良い会社であり続けている。
 どんな企業でも、設立当初は社員が頻繁に入れ替わり、経営体制の整備とともに離職率が低下するのが通例である。30年以上にわたって中小ベンチャー企業を取材してきたが、当初から9年間も離職者を出していない企業は初めての例である。
 同社は昨春、落ち着いた開発環境を求めて、新宿から吉祥寺に移転した。カフェのようにデザインされたオフィスで、社長の樋口悠介は、穏やかな口調で雇用方針を述べる。
「会社の役割には社会貢献もあるだろうが、それ以前に、社員の生活を保障することが責務と私は考えている。また社員のモチベーションを上げる環境づくりをすることも大事だ。社員の満足度が上がれば離職率も下がるし、モチベーションが成長を促進し、優秀なエンジニアが産まれ、会社の利益にも直結すると考えている。その意味で、言い過ぎかもしれないが、当社は雇用のゴール付近にいるのかもしれない。私自身、いまの地点から後退しないように邁進しなければならないし、会社にも社員が定着する風土ができていると感じる。その意味で、各自の10年先を見据えた人材育成に取り組めるのが強みだと思う」

2.ショッピングサイト開発の狙いは開発力の強化

同社には設立時から、大手ITコンサルティング会社出身の樋口を筆頭に、樋口が声をかけた約5人の上流工程経験エンジニアが参画した。フルスタックな人材を揃えたのだ。
 現在では社員25人のうち10人がフルスタックなエンジニアだというが、育成方法は上司・先輩によるマンツーマン方式による現場指導に徹している。社外研修機関への派遣や外部コンサルタントの起用は一切行なっていない。「エンジニアは実務経験を通してしか真に成長しない」(樋口)と考えているからだ。
 設立当初からの事業の特徴は、メガバンクや外資系生命保険会社などの業務系基幹システムの要件定義・設計など、上流工程から下流工程まで一気通貫で行なっていることである。業務系基幹システム開発において、顧客の複雑な業務フローを理解し、システムに具現化するといった作業は、エンジニアのスキルをより一層、洗練させることにつながった。
 同社は昨年(18年)から、一騎当千の人材資源を新分野に投入し始めた。一般消費者向けのショッピングサイトの開発で、売上構成比では、すでに業務系基幹システムを上回って8割を占めるまでに拡大した。事業領域を転換した理由は、ノウハウ共有による開発力の強化である。樋口は説明する。
「業務系基幹システム開発業務では、作業現場がクライアントの社内に限定され、当社の社員はクライアントの勤務時間に合わせて出退勤する。そのため社員同士が情報もノウハウも共有しにくく、個々のレベルは上がるものの、会社全体としての開発力の向上は難しい状況だった。ショッピングサイトなどBtoCの開発業務は当社内で行なうので、社員同士が議論を重ねて開発力を向上させるできることもできる。
 また、事業を拡大できた要因として、金融機関では必須要件の精緻な資料作成によるプレゼンテーションが、競争力を発揮してくれた。この手法はショッピングサイト開発の場では珍しく、クライアントから信頼性を獲得する要因にもなったと考えている」

3.エンジニアとしての 自己実現を支援

こうした事業展開の過程で樋口が最も重視しているのは、モチベーションの維持向上である。会社が指示する業務と本人が希望する業務を、50対50の比率で担当させて、エンジニアとしての自己実現を支援している。多少、目先の利益が落ちても本人の希望を受け入れているのは、モチベーションの維持こそがエンジニアの成長を促進し、結果的により多くの利益となって会社に還元されるからだという。
 同社にはヘッドハンターから声のかかる社員も多いが、誰も退職しないのは、よほど良い会社だからに違いない。2年前に入社したエンジニアは職場の実感をこう語る。
「当社は、会社が社員に対して画一的でなく、個々の社員に合わせてくれる。私が体調を崩して半月休んだときも、私をラインから外さずにリカバリーする態勢を敷いてくれた。それから物事に対して否定形の発言から入る社員がひとりもいないので、つねに前向きなマインドが職場全体に行きわたっている。普通、20人集まれば否定形から入る人がひとりはいるものだが、当社にいないのは、採用時にきちんとスクリーニングしているからだろう」
 採用は新卒・中途に分けず、適性人材を選定している。樋口が重視するのは業務知識よりも協調性やコミュニケーション能力、フットワークなどだ。システム開発はチームプレーなので組織人としての適性を面接で評価しているが、退職に至らない人物を選んでいる実績は、相当な眼力の所以である。人事の入口である採用の重みが凝縮されている。

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