株式会社メディカルネット 平川 大

Guest Profile

平川 大(ひらかわ・だい) 

1973年生まれ。大手コンピュータメーカーを経て、2003年、タイでIT×ゴルフ事業を立ち上げる。05年に日本メディカルネットコミュニケーション株式会社(現株式会社メディカルネット)に入社、ソリューションセールス事業部ゼネラルマネージャーに就任。06年取締役、12年6月代表取締役、同年8月に社長就任。16年8月、代表取締役会長CEOとなる。

特集歯科医療分野でITとリアルを融合 コツコツ築いたプラットフォーム

1.質の高さとコンサル営業で 押しも押されぬ 業界ナンバー1

国民の健康志向の高まりに伴って、ネット上にも医療・健康情報を提供するさまざまなサイトが登場している。そんななか、「インプラントネット」「矯正歯科ネット」「審美歯科ネット」など歯科領域に特化したポータルサイトを運営、患者や歯科医、歯科関連業界などからもプラットフォームとして高い支持を受けているITサービス企業がある。メディカルネットだ。2007年には医療者向けポータルサイトの運営で知られるエムスリーのグループに入り、10年、東
証マザーズに上場をした。
 
同社の創業は2000年。世の中がITブームになろうとしていたときだ。

当初は「家庭の医学のウェブ版」をイメージした医療全般のポータルサイトを目指していたが、限られた経営資源のなかでは内容がどうしても「広く、浅く」なってしまうことから、特定領域に絞り込んで足固めをすることにした。ターゲットにしたのが歯科だ。

「歯科医院は過当競争に陥っていて、マーケティングや広告のニーズが高まり、ネットメディアのビジネスチャンスも拡大していた。さらに、インプラントの普及に熱心な歯科医と出会い、『インプラント専門のサイトを作ってほしい』と要望されたのも、きっかけになった」と、当時のことを代表取締役会長CEO平川大は振り返る。

同社のサイトは歯科領域の草分けだ。とはいえ、IT大手がその分野に目をつけないはずはなく、歯科の新しいサイトの開設が相次いだ。そうした競合の中でも、同社が一番手のポジションを確保できた理由について、平川は「一つは、メディアとしての質の高さ」と分析する。

「サイトの記事は歯科医に監修してもらうなど、エビデンス(医学的根拠)には徹底的にこだわっている。海外の主要学会には欠かさず取材スタッフを派遣するなど、最新情報の収集と発信にも努め、さらにコンテンツは質だけでなく、量も充実させてきた。初期投資の負担は重かったが、愚直にメディアを作り込んだおかげで、患者様からの信用、そして、歯科医からの高い評価にもつながっている」
 
もう一つ、平川が挙げるのが営業力だ。ネット広告にしても、スペースブローカー型営業ではなく、クライアントの課題解決を図る「コンサル型営業」に徹してきた。例えば、歯科医院から「ホワイトニングの認知度を高めて、集患したい」といったニーズを把握したら、どのようなPRを行ない、どのようなホームページを作成したらよいかといったトータルな広告プランを提案する。

2.第二の事業基盤づくり 子育てポータルサイト

現在、歯科のポータルサイトをベースに、リアルな世界でのクリニックの経営支援、歯科関連企業(約400社)のマーケティング支援というBto Bビジネスを収益源として成長してきている。平川は、「経営資源を歯科領域に集中させ、圧倒的なブランド力を構築したい」と意欲を示す。ブランド力をテコにして、歯科医院だけでなく、歯科技工所(人工歯などの製作)、歯科関連の医療機器メーカー、IT機器メーカー、ディーラーといった周辺分野にも、ビジネスを広げていく狙いだ。
 
とりわけ、力を入れているのが歯科医へのブランドの浸透。「当社がカバーしている歯科医は現在約2万人、全体の約2割に過ぎない。グループのエムスリーは、すでに医師の8割をカバーしており、当社もその水準を目指していく」
 
歯科のポータルサイトに続く第二の事業基盤として、注力するのがママ向けの子育てポータルサイト。「待機児童」「マタハラ」等の社会問題化などを契機に、「社会の要請に応える事業」と見て、15年に運営をスタートした。「対象を赤ちゃん(乳児)中心にして、差別化を図る」(平川)
 
乳児の育児は周産期医療と切り離せないため、医療領域に事業基盤のある同社ならではの強みを生かせる。小児科医による子育てのアドバイスのほか、理学療法士による正しいハイハイのさせ方、脳を発達させる育児法、離乳食の作り方といったコンテンツのほかに、家庭料理の「クックパッド」のように、先輩ママが自分の子育てのノウハウをサイトにアップし、それらを後輩ママが共有できるサービスも検討中。赤ちゃんの子育てのあらゆる悩みを解消できる、いわば「ウェブ版の育児相談所」が目標だ。

3.人生のV字回復経験者が さらなる成長へと導く

同社では、歯科と子育てだけでなく、医療、エステ、美容など医療・健康関連でもポータルサイトを運営し、その数は約130にも上る。既存事業の拡大に加えて、宝くじ購入者へのポイント還元システム、大企業の健保組合と提携した予防医療事業、海外での医療機関運営など、構想中のものも含め数多くの新規事業計画が進められている。いずれも、社会課題の解決というテーマが根底にある。
 
こうした新規事業を実現していくためには、新しい人材の獲得・活用が重要になる。同社では、新卒、中途とも積極的な採用活動を行なっており、求める人物像について、平川はこう話す。「中途採用の場合でも、専門性、キャリアにはそれほどこだわらない。社会に対する問題意識を持ち、これまでに挫折を乗り越え、成功した体験があるかどうかを重視する」
 
挫折からのV字回復の度合いは大きければ大きいほどよく、仕事上であれ、プライベートであれ、「乗り越えた!」と自信をもって言える経験が、何よりも同社のビジネスにはプラスになると考えているからだ。
 
目先の結果を求める企業をしり目に、愚直な積み重ねをベースに、歯科医療分野でのITとリアルとの融合を確かなビジネスとして高めてきたメディカルネット。挫折経験のある人材が、今後の同社をさらなる成長へと導いていくことは想像に難くない。

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