濃飛バス(濃飛乗合自動車株式会社) 齋藤尚正

Guest Profile

齋藤尚正(さいとう・たかまさ)

1954年生まれ。日本大学法学部法律学科卒業。77年4月、名古屋鉄道入社。伊良湖湾観光センター、ニュー東京観光バス、名古屋観光自動車等で業務に携わる。自動車事業本部企画管理部長(2003年)、監理部付部長(07年)などを経て、08年7月名鉄観光バスへ出向、同年12月同社常務取締役。11年6月濃飛乗合自動車へ出向、代表取締役社長に就任、現在に至る。

特集高速バス「富山・白川郷・高山線」を開設 国内外からの集客力を高め 観光産業の発展を後押しする

1.北陸新幹線の開業で賑わいを増す飛騨高山

 岐阜県の飛騨高山エリアは「白川郷」、高山市の「さんまち」などの見どころを抱え、国内外の観光客から人気を集めている。とりわけ、2015年3月の北陸新幹線開業以来、東京方面からも、日本海側経由で大勢の観光客が訪れるようになった。そうした流れに対応するため、飛騨高山エリアを地盤とする濃飛バス(正式社名は濃飛乗合自動車)は15年12月、高速バスの「富山・白川郷・高山線」を開設した。

 この路線が国に認可されたのは初めてだ。1日4往復(富山地方鉄道との共同運行)で、途中停車するのは白川郷のみ。富山駅と高山濃飛バスセンター(高山駅前)を約2時間25分で結ぶ。乗客数は年間約2万3000人を見込む。北陸新幹線と飛騨高山エリアとのアクセスをよくすることで、新たな観光客を国内外から呼び込むのが狙いだ。同社社長の齋藤尚正は、「富山・白川郷・高山線の乗客は、ほぼ新規利用客となるだろう」と自信を示す。

「当社の既存路線には、金沢・白川郷・高山線もあるが、東京方面から北陸新幹線経由で来る場合、富山発のほうが金沢発よりも早いし、運賃も安い。金沢に滞在目的がなければ、富山発が便利だ。また、路線が増えることで、混雑の緩和にも役立つ。一方、富山・高山間ならJR特急『ワイドビューひだ』のほうが早い。東海道新幹線利用の場合、名古屋・高山間は鉄道やバスの本数が多く、便利という面もある。しかし、白川郷に立ち寄る観光プランなら、富山・白川郷・高山線が、絶対的に優位だと言える」

2.英語ガイドのサービス開始外国人乗客数の伸びを支える

 濃飛バスは1943年、戦時統合により、岐阜県北・中部のバス会社11社が合併して誕生した(前身の濃飛自動車の創業は1912年)。現在は名古屋鉄道グループの一員。設立以来72年にわたって、飛騨高山エリアの交通インフラとして住民に親しまれる一方、観光地への路線バスの運行などでも、地域産業を支えてきた。2014年度の売上高は33億円で、バス事業がその8割を占める。

 業績は増収を続けている。木曽御嶽の噴火、貸切バスの運行規制強化などの影響で、山岳ツアーを中心に国内団体客離れといったマイナス要素もあった。その一方で、外国人観光客の急増が追い風となっている。「一般・コミュニティバスも順調だ。地域の人口減という逆風もあったが、現在は“観光の足”としても活用されている」と、齋藤は胸を張る。

 高山市では、前年に比べて約25%も外国人宿泊客が増加。白川郷に至っては、観光客の70~80%が外国人と思われる日もあるという。

「当社の高山・白川郷ルートでは前年よりも約40%、高山・白川郷・金沢ルートでは約60%増加しているが、その理由の一つは外国のお客さまが増えたことによる」

 そこで、白川郷行きの定期観光バスでは、2年前から英語ガイドのサービスをスタート、15年2月からは全ての便に導入した。その結果、外国人の乗客数は、前年より約50%も伸びたという。

3.地域企業との連携を深め"滞在型観光"を広める

 観光立国を掲げる国の政策もあって、中長期的にインバウンドの観光市場は拡大すると見込まれている。しかし、経済情勢や為替レートといった需要の変動要因もある。同社としては、「外国のお客さまとともに、国内のお客さまも安定的に確保する」ことが、目下の経営課題だ。そのため、飛騨高山エリアの集客力を、どのように高めていくかがカギとなる。

 飛騨高山エリアには、白川郷や高山市街のほかにも、豊富な観光資源がある。「白川郷・高山ルートというメインの路線だけでなく、点在するほかの観光スポットもつなぎ、エリアの"面"全体を活性化する滞在型観光事業」を目論む。富山・白川郷・高山線は、飛騨高山エリアの周遊を容易にし、滞在型観光を推進する布石でもある。

 観光の目玉として掘り起こしを考えているのが、奥飛騨温泉郷や新穂高、乗鞍岳などを含む「北アルプス周遊ルート」だ。富山・白川郷・高山線で高山に来た観光客に、足を延ばして北アルプスも巡ってもらう。さらに、立山・黒部(富山県)、上高地(長野県)といったルートを通って、出発地に帰ってもらおうというわけだ。

 滞在型観光を広めるため、地域企業とも協力し、セット企画にも力を入れる。例えば、高速バスの新宿(東京都)・高山線では、高山市内のホテルと提携した宿泊プランを3年前から提供。それが好評で、利用客は毎年約2割ずつ伸びているという。個人客中心の路線バスを利用したパックツアー「気ままなバス旅」では、地元と連携し、さまざまな観光素材を組み込んだ商品造成に力を入れている。

「エリア外からの集客によって、地域経済に貢献するのが当社の使命。そのための取り組みにチャレンジし続けたい」と、齋藤は意気込む。濃飛バスが核となり、飛騨高山エリアの観光産業はさらなる発展が期待されている。

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