WILLER ALLIANCE株式会社 村瀬茂高

Guest Profile

村瀨茂高(むらせ・しげたか)

1963年9月、愛知県生まれ。94年5月WILLER TRAVEL(旧株式会社西日本ツアーズ)を設立、代表取締役に就任。2005年6月、WILLER ALLIANCEを設立(代表取締役)。06年4月、高速バス「WILLER EXPRESS」事業を開始。14年7月WILLER TRAINSを設立(代表取締役)。15年4月、第二種鉄道事業者として「京都丹後鉄道」の運行を開始。

特集インバウンドも個人旅行の時代『JAPAN BUS LINES』で地方移動も安心、便利に

1.個人旅行の利便性高める路線バスのネットワーク

 インバウンド(訪日外国人旅行客)需要の入口から見ると、2016年のインバウンド需要は引き続き拡大しながらも、少し変化していくのではないかという。高速バス事業大手の「WILLER
EXPRESS」をグループにもつWILLER ALLIANCE(ウィラーアライアンス)代表取締役の村瀨茂高はこう見通す。

「日本人の海外旅行がパッケージ旅行から個人旅行に変わったように、インバウンドも今はパッケージ旅行中心だが、これからは個人旅行が増えていくだろう。移動経路も従来は大都市間が多かったが、15年あたりから大都市と地方都市間の移動が増え始めている」

 14年実績で同社グループの高速バス運行は1日22路線・220便で、年間利用者は234万人に達した。だが、バス業界では、需要の急増に貸し切りバスの供給が追いつかず、供給力に余裕のある公共交通機関としての路線バスの活用が求められている。

 その解決策として同社の提案によって、15年9月に、北海道から四国に至る路線バス事業会社約50社とともに高速バスの予約サイト『JAPAN BUS LINES』が開設された。英語、韓国語、中国語(繁体字)に対応し、海外からのバス利用予約が可能だ。同社グループのWILLER TRAVELがこのシステム開発およびサイト管理を担当する。

 WILLER TRAVELではすでに自社で予約サイトを開発・運営しており、14年に7万5000人だった外国人利用者は15年には15万人へと倍増している。それだけ強いニーズがあるということだが、JAPAN BUS LINES サイトは、いわば、このシステムを路線バス事業会社各社に開放したものだ。

2.マーケティングデータを開放感動の旅をマッチング

「当社のバスだけでは全国をカバーできない。利用者の視点に立って世界中から日本全国のバスをワンストップで予約できる方法はないかと考えた」

 現状、手続きや申し込み内容は各社独自のものになっているが、外国人からも分かりやすく、安心して利用できるようにするため、多言語表示への対応、乗り方やバス停の表示方法など最低限の共通化を15年度中に図っていくという。

 さらにこのJAPAN BUS LINESでは、利用各社がWILLERグループの強みであるITマーケティング力を活用することができる。ネット予約のデータを通じて明らかになった、利用客の属性や、歴史、アート、食など関心分野別の分布状況などを利用各社や関連自治体に提供、「旅行者属性にマッチしたコトやモノを提案し、外国人旅行者に感動の旅を体験してもらう」ことを狙う。

 予約システムに加えマーケティングノウハウも積極的に開放していこうという同社。14年12月期に130億円だった連結売上高も、15年12月期には160億円となる見込みだ。高速バス事業が100億円、フェリーやLCCなどと連携したパッケージ旅行事業40億円という内訳だが、今後は後者の比率が確実に高まってくる。JAPAN BUS LINESが本格稼働する来年度(16年12月期)は「社員も驚くような思い切った目標値を設定した(笑)」と村瀨は表情を和ませる。

3.駅活性化と地方商社構想で若者の定住、雇用の創生

 同社の事業はインバウンド需要の出口となる地域振興にも向かっている。村瀨は地域振興の必須要件に「持続可能性」と「マーケティング力」の2点を挙げる。そのための具体策として同社が推進しているのが、駅のコミュニティーセンター化と地方商社構想だ。

「鉄道が変われば商店街も変わり、住民の生活スタイルにも影響を及ぼす。その要が駅である」と村瀨は考える。

 たとえば駅に親子連れが楽しめるアトラクション施設を設ければ、週末には沿線から多くの親子連れがその駅に足を運ぶことが想定される。駅周辺の商店街には、子供向け輸入服や輸入グッズなど地方の店舗にはない品揃えを充実させ、アトラクションとショッピングをいっしょに楽しめる街にする。そうなれば集客力のある駅に転換できる。

「こうした仕掛けを親子連れだけでなく、地域特性に合わせてシニア向け、若年女性向けなどにセグメント化して設けていけば多くの商店街に活力が戻る」

 一つのモデルケースが15年5月31日に開催された「大丹鉄まつり」だ。同社が再建中の京都丹後鉄道天橋立駅(京都府宮津市)周辺でキャラクターショーなどのイベントを1日開催し、そのイベントに合わせ地元商店が模擬店を出店したところ、宮津市の人口約1万8000人に対し沿線から約1万人が集まったという。

 地方に行けば行くほど、近隣に商店街のない駅も多い。そうした駅については、駅舎をコミュニティ活動のスペースに活用するモデルを考える。すでに京都府や京都丹後鉄道の沿線自治体との協議も進んでいる。

 駅の活性化と対をなすのが地方商社構想だ。同社がマーケティング活動のサポートをしながら、地元産商材をベースに新商品を開発、ネット販売を積極的に手がけていくというものだ。政府が取り組む地方創生のメインテーマは若者の定住だが、この地方商社が稼働すれば、若者に対する雇用の創出にもなる。16年内にも京都丹後鉄道沿線に設立する計画で、交通事業者や地域金融機関などが、開設主体として検討に入っているという。


 WILLER ALLI-ANCEは今後10年の事業方針を「交通革命」と掲げている。交通を起点とした地域再生事業は、新たなタウンマネジメント手法に結実するかもしれない。

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