東武トップツアーズ株式会社 坂巻伸昭

Guest Profile

坂巻伸昭(さかまき・のぶあき)

1959年生まれ。武蔵大学経済学部経済学科卒業。82年4月、東武鉄道入社。2008年同グループ事業部長、10年東武トラベル取締役社長を経て、12年東武鉄道取締役グループ事業部長に就任。13年8月、トップツアー社代表取締役社長および東武トラベル代表取締役を兼任。15年4月、東武トップツアーズ取締役社長に就任(現任)。

特集2020年以降を見据え、地域の人たちと旅の感動を創る ビジネスモデルへの転換を図る

1.インバウンドブームは業界の将来への逆風?

「旅行業界は、いま逆風だと思っています」――。

 東武トラベルとトップツアーが2015年4月に合併し誕生した東武トップツアーズの取締役社長、坂巻伸昭はこう切り出した。

 国内旅行業界は現在、空前のインバウンド(訪日外国人旅行客)ブームに沸いている。政府は2020年の東京五輪に向けて訪日外国人2000万人を目標に掲げてきたが、15年1~11月実績ですでに1700万人を超え、16年にも2000万人を達成する勢いだ。そんな強力な追い風が吹く旅行業界にあって、坂巻は逆に危機感を募らせる。2000万人という数字だけが独り歩きし、「爆買い」が喧伝されているが、そうした風潮に疑問を呈する。

「旅行業界はもはや従来のビジネスモデルでは立ち行かなくなっています。ところがインバウンドという追い風が吹き始め、収益が伸びているため、ビジネスモデル転換の機運が高まらない。このままでは、2020年以降、この業界が厳しい状況に陥るのは間違いない」

 それでは坂巻が描く旅行業界の新しい姿とはどういうものなのか。

 そのキーワードが「地域」だ。外国人観光客が東京や京都といったゴールデンルート上の有名観光地を巡り、ショッピングを楽しむのもいいが、全国にはまだまだ知られていない土地がたくさんある。いかに日本各地の魅力、よさを知ってもらうか。その発見と情報の発信が旅行会社の大事な役割だと指摘する。

2.積極的な仕掛けづくりで地域と一緒に取り組む

 そのためには、旅行会社がさまざまな仕掛けをしていくことが重要だという。同社の場合、東武グループとして群馬や栃木に豊富な地域資源がある。この地に観光客を呼び込み、地盤をしっかり固めたうえで、そのビジネスモデルを全国に展開していこうという考えだ。

 取り組みはすでに始まっている。15年7月には、同社も協賛した「第1回全国連合子ども観光大使大会in日光」が400年祭を迎えた世界遺産・日光東照宮で開催された。

「子ども観光大使」とは自分の住む地域のよさを体験を通して学び、それを外部に発信する活動を行なうもので、全国で約2000人の子どもが認定され活躍している。初の全国大会には、全国各地から82人の大使を含め約300人が参加した。

「子どもたちが自分の住む土地のいいところを、いろんな形で発表してくれました。その言葉、表情には訴えるものがありました。こうした活動をきっかけに、子どもたちが地元のよさを発見し、その地域で生きていこうという愛が生まれるのではないかと期待しています」

 子どもだけではない。高齢者を対象にした「生涯学習」でも、街の魅力を再発見しようという「街のコンシェルジュ」活動が全国各地で行なわれている。坂巻はこの取り組みにも積極的に関わっていきたいという。

「地域の人たちはよく、ウチは田舎だから自慢するものは何もないとおっしゃる。でも、古くから続く神楽や、遺跡、古い食文化といったものが残っている。そこで私たち旅行会社が、地域の人たちに自分たちの土地のよさを再認識していただき、ツアーなどを企画し、ご案内する。そういう小さな動きで地域は変わります。時間はかかると思いますが、地域の人と当社の従業員が一緒に考えていくような取り組みに力を入れていきたい」

3.新ブランド「Feel」が始動新たな旅を創出する

 旧東武トラベルは東武鉄道沿線を中心に、全国主要拠点に支店を持つ一方、旧トップツアーは全国各地に支店を構える。重なるエリアが少ない。また、両社の強みは法人営業だが、教育旅行は東武トラベル、トップツアーともに強みを持つこと、宗教分野では東武トラベルの強みをトップツアーの全国ネットを活用した展開を図れること、スポーツ、MICE分野での両社展開、トップツアーの海外法人・事業所を活用した訪日団体・個人旅行の誘致等において、合併によるシナジー効果が発揮できると坂巻は自信を示す。

「“Warm Heart”~ありがとうの連鎖を~」――。東武トップツアーズの経営理念である。

 坂巻はメディアからの取材を受けるたび、何度もこの言葉を繰り返す。

「当社の財産は『人』であり、それが強みです。そして仕事を通じてお客様、お取引先、そして地域の人々とともに明日へつなぐ『ありがとう』を共創し、安全・安心と最上のサービスにより期待を超える感動を創造していくことを経営理念に掲げています」

 この経営理念を具現化すべく、東武トップツアーズの新ブランド『Feel(フィール)』が16年4月から始動する。旧東武トラベルの「ユニック」と旧トップツアーの「CUTE」という2つのブランドを統合し、国内・海外の募集型企画商品で使用するオリジナルブランドだ。コンセプトは「私たちが創る新しい旅をお客様に『感じて』いただきたい」というもの。

「旅行は目的ではなく、手段です。ところが、これが逆転しているようなことが多いと私は思っています。旅行会社も、旅行に行かせることが目的だと考えがちです。だから価格で勝負したりする。しかし、本来、旅行の目的は別にある。人との出会い、その土地での体験や新たな発見かもしれません。そうした感動を創るのが私たちの仕事だと考えています」

 新ブランド『Feel(フィール)』には、坂巻のそんな熱い思いも込められている。

TO PAGE TOP