株式会社らしく 佐藤純也

Guest Profile

佐藤純也(さとう・じゅんや)

1964年岩手県生まれ。89年に埼玉大学大学院を卒業後、株式会社リクルートに入社し、業務アプリケーションの企画開発に従事。その後、株式会社セールスフォース・ドットコムなどの企業向けクラウドコンピューティング提供会社にて、企画やコンサルティングを担当した。2011年に株式会社らしくを立ち上げ、ITを活用した街や地域の魅力アップをテーマに事業を推進している。

特集ネット上のビッグデータを分析、可視化インバウンド顧客の行動を知る

1.サイトを持たなくても顧客の評価・評判がわかる

 ITの進化とスマートフォンの普及、ビッグデータが、ネットとリアルの融合を急速に進めている。
 
 Webサイト、フェイスブック、ECサイトを活用していれば、ネット上での自社に対するアクセス状況の分析などにより、顧客からのある程度の定量的な評価やプロモーションに対する効果を知ることができる。しかし、実店舗だけで営業しているところには、そうしたインターネット活用のメリットは少ない。数年前までは確かにそうだった。ところがいまやそうした状況に変化が生まれている。

「ビッグデータを活用することで、自社サイトがなくてもお客さんからの評価がわかる」

 そう語るのはITを活用して商店街や街の魅力をアップするための支援事業を展開する、らしく代表取締役の佐藤純也だ。

「商店街や店舗がインターネットとの関わりがまったくなかったとしても、お客さんの大半は違う。スマホやタブレット端末を通じて、ツイッターやフェイスブック上で、好意的な投稿、あるいはネガティブな発言をすることは珍しくない。最近では画像とセットで投稿されることも多く、発言の対象(どの店、どこの商店街に対するものか)を特定しやすい環境も整っている。これらを分析することにより、商店街、特定店舗の魅力がクローズアップされ、課題や問題点も明らかになる」

 つまり、「いつ」「どこで」「どんな内容が」SNS上でつぶやかれているかを集約し、データマイニングの手法により掘り下げていくことで、ネット上で情報を発信していない企業や店舗であっても、お客さんからの評価や反応がわかる時代になったのだ。

2.海外からの投稿もカバーするオンリーワンのサービス

 最近のドラッグストアや家電量販店では「(中国人から)爆買いされる商品がどれかはPOSデータを見ればわかる。しかし、その商品がなぜ爆買いされるのかはわからない」とよくいわれる。だから「抹茶味のお菓子は鉄板」「使い捨てマスクは値段の高いものから動く」といった情報をもとにどこも同じような品揃えをせざるをえない。ところが「なぜ、その商品が中国人から支持されているのか」がわかれば、お店独自の戦略的な手を打つことができる。

 らしくでは、株式会社ナイトレイの訪日外国人旅行者解析サービス「inbound insight(インバウンドインサイト)」を利用して、世界中から投稿されるSNS上のコメント(日本語に限らず)を収集し、消費者の行動分析を行ない、特定の観光スポットや店舗が訪日旅行者からどう思われているのか、来店を促進させるには何が効果的かなどをレポートする『訪日外国人旅行者ビッグデータを利用する行動分析』サービスを開始したところだ。

 日本人を対象としたSNS上の投稿については同様なサービスを提供する会社はあるが、海外からの訪日旅行者を対象としたものは、現状ではオンリーワンのサービスだ。

 SNS上の発言者たちの行動分析の結果を可視化することにより、新たな発見につながることも多い。訪日中国人旅行者の投稿をもとに行動分析をしたところ、男女で大きな違いがあることが見えてきたという。同じ中国人でも、男性は都市中心であまり動きがない。それに対し女性は地方にもせっせと足を運び、積極的に行動をする。このことから、中国人女性に対しては地方都市での企画に可能性がありそうなことがわかってくる。

 すでに複数の自治体や広告会社などからの引き合いが入っており、導入に向けて話を進めているところだという。

3.表計算ソフトでサイト更新をサポート

「インバウンドの顧客に本気で訴求しようと思ったら、日本に入ってくる前が勝負」と、佐藤は言う。

 らしくではインバウンド客およびその予備軍を3つのフェーズに分けて考えている。海外にいて日本への旅行に興味がある層、海外にいて日本への旅行を決定した層、そして日本を旅行している層(着いたばかりの人たちも含む)の3つだ。これを前提に考えると、インターネットを通じた多言語対応の情報提供が重要だということがわかる。

「ネット上にはGoogle翻訳のような無料の翻訳サービスがある。翻訳の品質が気になるのなら、多少コストはかかるが「Gengo」などの翻訳クラウドサービスを利用するという方法もある」

 もっともインバウンド対策としての多言語対応を考えるのであれば、翻訳の中身を気にするよりも、いち早く海外へ情報発信をすることが重要であり、「何となくこんなことを言ってるな」ということが伝われば、きっかけとしてはそれで十分だという。多言語で情報発信していれば、それだけ海外からのネット検索にかかりやすくなるし、SEO対策にもなるのだ。

 今年(2015年)3月に、平成の大修理が完了しグランドオープンした世界遺産、姫路城を有する兵庫県姫路市。その姫路市の各商店街では、海外からの旅行者も増えていることから、サイトの多言語化を進めており、らしくがサポートしているという。

 現在、らしくの顧客は商店街や商工会議所、観光協会などが中心だ。そうした団体では、専任のIT担当者を置く余裕はないし、ITリテラシーもあまり高くはない。独自のWEBサイトを持っていても情報の更新すらままならないという状態なのだ。そこで同社で開発したのが、表計算ソフトを活用したホームページ管理システムだ。表計算ソフト上で名前や住所を変更すると、それに合わせてサイトの情報やマップでの観光名所やお店の位置情報も変わる。そんなイメージのものだ。

 このサービスは、有料版でも50サイト以上、無料版を含めると200サイト以上で利用されているという。

 今後、らしくの取り組みが、どのようにインバウンド観光に貢献していくのか楽しみだ。

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