日本電波塔株式会社 前田伸

Guest Profile

前田伸(まえだ・しん)

1962年東京都生まれ。87年慶応義塾大学法学部卒業。銀行勤務を経て、2005年に日本電波塔株式会社代表取締役社長に就任、12年代表取締役社長執行役員(現任)。そのほか、株式会社マザー牧場代表取締役社長、株式会社エフエム東京取締役、港区観光協会名誉顧問、全日本タワー協議会会長なども務めている。

特集2020年後を見据え、ソフト強化や、世界的に通用する「おもてなし力」に注力する

1.ランドマークは世界的な観光ブーム

平日の午後だというのに、「はとバス」の黄色い車体が列をなし東京タワーの駐車場に入っていく。そしてほどなく外国人客が続々と押し流されてくる。ここ最近、東京タワーではこういった光景が当たり前になっているという。

 東京タワーを運営する日本電波塔によると、来塔客数の約3割を外国人が占め、今年(2015年)6月は前年同月比86%増、7月には93%増を記録した。日本政府観光局の発表では今年1~6月期の訪日外国人観光客数は前年同期比46・0%増で、6月単月では51・8%増であり、東京タワーの外国人客数の伸び率は訪日外国人観光客数の2倍近い勢いがあるのだ。

 その集客力の要因はどこにあるのだろうか。日本電波塔社長の前田伸はまず外部要因を挙げる。

 第一に東京という都市の魅力。第二に世界中で海外旅行者数が増加したこと。第三に、映像のデジタル化によって世界中に情報が配信され、その情報に接して街に来た思い出としてランドマークを訪れたいというニーズが増えたこと。「これらの相乗効果によって世界中のランドマークで集客が増えている」(前田)という。

 東京タワーへの注目度は数字にも現われている。

 東京都が発足させた「東京のブランディング戦略会議」(座長・池尾恭一(慶應義塾大学名誉教授・明治学院大学教授))の報告書によると「海外市民が東京で体験したい『日本のユニークで進んでいると感じる側面』」の項目で、欧米豪・アジアの調査対象19都市のうち7都市で東京タワーが1位にランクされた。東京タワーの公式フェイスブックでは「いいね!」の半数以上を外国人が占めている。

2.有名キャラクターとのコラボ商品も開発

 一方の内部要因では、ハードとソフトを同時に強化したことが集客力に結びついた。例えばタワーの足元に建てられた商業ビル「フットタウン」を数年がかりで改修し、ウェルカムラウンジを新たに開設した。1958年の開業以来、初めての取り組みである。

 15年3月、フットタウン内に海外でも人気の高いアニメ「ONE PIECE」をテーマとする1600坪の屋内型テーマパーク「東京ワンピースタワー」がオープンした。アミューズの子会社アミューズクエストが業務総括組合員となるAmusequest Tokyo Tower有限責任事業組合を設立、その事業運営を行なっているが、朝日新聞社、東映、ジェイティービー、フジテレビジョンなどと並んで、同社も共同出資者に名を連ねている。


 6月からはソフトの強化にも着手した。「東京タワーアテンダント」と呼ばれるサービススタッフが、東京タワーの歴史や施設概要などガイダンスを実施し始めた。

 前田は強化方針を説明する。

「来年8月のリオオリンピックの後に、もう一度東京オリンピックのムードが来る。1年をかけてしっかりとソフトを強化し、ホスピタリティーや多言語対応など国際的なおもてなし力の強化に注力する。訪日外国人観光客の増加はオリンピック後も続くことから、グローバル水準のホスピタリティーを確立したい」

 この7月には、フットタウン内に外国人客をメインターゲットにした施設をオープン。直営グッズショップを従来の2倍の約70坪に拡大して「東京タワーオフィシャルショップ・ギャラクシー」をリニューアルオープンしたのだ。東京タワーと有名キャラクターのコラボレーション商品などオリジナルデザインの限定商品110アイテムを新たに開発し、約410アイテムを品揃えに加えた。

 ショップに隣接する「マザー牧場カフェ」とのコラボレーションも実施し、東京タワー初の「オフィシャル食べ歩きスイーツ」と銘打って、東京タワーの形状に仕上げた「タワーたいやき」の実演販売も開始した。

3.街頭でパンフレットを配布中国人の訪日熱に直に触れる

 こうした施策を打つ一方で、集客マーケティングをどう展開しているのか。


 とくに注力しているのはアジア各国からの集客だ。最も来塔者数の多い台湾を筆頭に中国、タイ、マレーシア、インドネシア、インドなどアジア全域をカバーしている。都内唯一の広域観光団体である東京観光財団とともにプロモーションを仕掛けたり、ホテルオークラやマザー牧場などと合同で各国に営業に出向いたりしているのはほんの一例だ。

 前田も海外営業に出かけ、北京の街頭で自らパンフレットを配ったことがある。「日本なら通行人は素通りだろうが、北京では奪い合いになりそうな勢いで受け取ってもらった。対日関係では様々な主張があるが、肌と肌が触れ合える観光交流で仲良くなりたいというのがホンネではないか」と振り返る。

 昨年(14年)からはアジア新興国で会員獲得を目指すJCBカードと提携し、カードホルダーは東京タワーの大展望台に無料入場できるという特典を設けた。

 東京タワーは2020年に2度目のオリンピックを迎え、レガシー(遺産)となるべく布石も打っていく。20年までに展望台のリニューアルを実施して、塔全体も塗り直す計画だ。

「東京都や港区など足元の地域再生にミッションとして取り組みながら、パリやニューヨークにも胸を張れるサービスを提供し、東京タワーが後世に残るような経営をしていきたい」

 前田は熱く抱負を語った。

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