レカム株式会社 伊藤 秀博

Guest Profile

伊藤 秀博(いとう・ひでひろ)

1962年東京都生まれ。94年9月、レカムを設立し代表取締役社長に就任(現任)。2003年大連賚卡睦通信設備有限公司を設立、董事長に就任(現任)。04年5月、当時の大阪証券取引所ヘラクレス市場に上場(現JASDAQ)。現在、レカムグループCEO、長春賚卡睦服務外包有限公司 董事長も務める。

特集中国進出10年超の経験を活かしワンストップのBPOサービスを提供

1.社長の業務環境を提供レカムのBPO

 企業の間接業務などを外部委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)は人手不足を背景に需要が増え、矢野経済研究所の推計によると2016年以降に2兆円市場が形成されるという。

 このBPO市場で独自のポジションを固めたのが、JASDAQ上場の情報通信機器販売会社、レカムである。同社のBPO業務はバックオフィス業務、データエントリー業務、コールセンター業務、中国進出関連業務、貿易実務などでワンストップでの提供が特徴である。

 何が独自なのかと言えば、中小企業を対象に小ロットの業務でも受託して潜在需要を発掘し、中小企業にBPO戦略を確立させているのだ。

 例えば社員10人の給与計算でも受託しているが、依頼主に提供するのはコストダウン効果だけではない。中小企業で総務・経理の担当社員が退職した場合、往々にして社長が自ら新規採用者に仕事を教えるものだが、BPOを活用すれば社長は本来業務に集中できる。

 いわばレカムは“社長の業務環境”を提供しているのである。

 レカム社長の伊藤秀博によると、BPOには3つの取引領域がある。第一に、IBMやアクセンチュアなどのグローバル規模の情報処理企業が受託するケース。品質は高いが、価格も高い。第二に、名刺作成など軽作業をネットで受託するケース。価格が焦点となるだけに、品質はさほど高くないという。そして第三に、大手企業が子会社を設立して自社内の間接業務を委託するケースである。

 同社の場合は3つのいずれにも該当せず、しかも現状でレカムを追随する動きは見られないという。競争力の源泉は営業力、業務処理の幅と質、上場企業としての信用力である。

 営業力では13年に、BPO営業を担当するレカムBPOソリューションズを設立した。ここから先述した独自のポジション形成へと向かう原動力となったのは、情報通信機器の営業で培ったプッシュ型営業ノウハウである。多くのBPO受託企業は問い合わせに対応するプル型営業で受託しており、「意外に競合先がない」と伊藤は分析する。

2.この6月に業界の発展に貢献した企業として表彰

 業務処理の幅と質は、BPO事業の成り立ちに端を発する。

 11年前、03年にレカムのBPO事業はさかのぼる。中国・遼寧省大連市に現地法人を設立して、情報通信機器の販売に関するリース契約や料金回収などの事務処理を担当させた。

 やがて経験を積み重ねるうちに「これだけ複雑な業務を外国人がこなしている。このノウハウは事業化できるのではないか」(伊藤)と考え、09年に事業化した。自社内の様々な業務が事業化の資源になっただけに、バックオフィス業務を丸ごと受託できる対応力を発揮できた。

 さらに人材の質を強化した。中国の現地スタッフは大連市の現地法人に70~80人、吉林省長春市の現地法人に40~50人在籍しているが、ほぼ全員が日本語検定1級か2級の取得者である。

 士気の高揚に向けて現地法人の社長を兼務する伊藤は「中国で生まれた会社なのだから、いずれ中国人スタッフが社長になって経営してほしい」とハッパをかけ続け、日本と同様の人事手法を導入した。四半期ごとの人事評価による昇給、360度評価などを導入した結果、スタッフたちは「環境整備」と呼んでいる始業前の清掃にも、嫌がらずに取り組むようになったという。

 この6月には、大連市の現地法人が大連市人民政府中国サービス貿易協会より表彰された。中国のソフトウエア・情報サービス業界で際立った貢献のあった国内外の企業を表彰するものだ。

3.ヤンゴンに現地法人設立3年後100人体制を目指す

 BPO事業の売上高は15年9月通期で前期比17・3%増の4億円、営業利益は73・9%増の4000万円を見込む。

 中期経営計画では本業に迫る営業利益目標を設けた。17年9月期に年間売上高70億円、営業利益5億円が盛り込まれ、そのうちBPO事業は売上高14億円、営業利益2億円を稼ぎ出す計画になっている。

 この目標を達成する有力な手段がM&Aである。BPOの受託先はこの1年で10社から46社に拡大したが、新規受託先の半数がレカムBPOソリューションズによる獲得で、もう半数が中国で買収したBPO会社の受託先だ。

 目下、中国で稼働している日系BPO会社には、毎年10%ペースで上昇する人件費に円安が加わって収益性を悪化させ、撤退を検討するケースが増えている。買収候補先が増えていく中で、伊藤は「いっしょになって規模の経済を実現させたい」という方針を固めている。

 事業拠点の売上構成比では、17年9月期までに、昨年設立したミャンマー・ヤンゴン市の現地法人が中国2カ所の現地法人を上回る見込みだ。

 ミャンマーでは10人のスタッフが稼働しているが、今年4月から35人の研修生に日本語教育を実施して、その中から約半数を雇用できれば年内に17~18人の陣容を整えられる。3年後には100人体制を目指し、業務拡大だけでなくオフィスの坪効率向上も視野に入れている。

 ヤンゴン市は初任給の相場こそ日本円換算で月額2万円程度だが、家賃相場が高騰して坪当たり9000円にも達する。伊藤は「東京並みの水準だ。坪効率を上げるためにも100名体制をつくる」と抱負を示す。

 こうして、市場拡大を見込めて利益率の高いBPO事業によって、レカムは情報通信機器販売にソリューション提供を加えた複合業態をつくりあげつつある。

TO PAGE TOP