一般社団法人アジア経営者連合会 澤田 秀雄

Guest Profile

澤田 秀雄(さわだ・ひでお)

1951年2月4日生まれ、大阪出身。高校卒業後、旧西ドイツ・マインツ大学に留学。80年、インターナショナルツアーズ(現エイチ・アイ・エス)設立。96年、スカイマークエアラインズ(現スカイマーク)設立。同年オーストラリアにThe Watermark Hotel Gold Coastをオープン。99年協立証券株式会社(現エイチ・エス証券)の株式取得。03年、モンゴルAG銀行(現ハーン銀行)の会長就任。10年、ハウステンボス株式会社の代表取締役社長に就任。12年、公益財団法人東京交響楽団理事長。

特集日本はアジア各国とビジネスのタイミングが合う関係になった。いまこそ「ワンアジア」

1.あらゆる業種が進出し、若い経営者もアジアでビジネス展開している

 さる3月17日、アジア最大級の経営者交流イベント「アジア経営者ビジネスサミット2015」が都内で開かれ、日本とアジア各国の中小・ベンチャー企業経営者が大挙して参加した。昨年開かれた第1回大会の参加者数は約1600人だったが、今年はさらに増え活況を呈した。

 ビジネスサミットのテーマは昨年も今年も「ワンアジア」。その趣旨について、主催者である一般社団法人アジア経営者連合会の澤田秀雄理事長(エイチ・アイ・エス会長、ハウステンボス社長)は「アジア経済圏はやがて欧米を追い抜いて世界一の経済圏になる。アジアは一つにまとまるべきだ」と熱意を込めて語る。

 アジア各国の経済成長率が出色の伸びを続けているなかで、中小・ベンチャー企業にとってのビジネス環境はどんな状況にあるのだろうか。澤田氏はこう見る。

 「ビジネス環境はすごくいいと思う。かつては進出の難しかった中小企業やベンチャー企業でも進出できる土壌ができあがったのではないだろうか」

 その根拠はインフラの整備だ。澤田氏は続ける。

「十数年前まで、アジアには道路や電気などのインフラだけでなくビジネス環境全体が整っていなかったので、中小・ベンチャー企業が進出するには厳しかったと思う。

 インフラが整っていないときに日本の感覚で進出しても『あれが足りない』『これができない』という状況に直面して、失敗してしまうだろう。まだまだアジアにはインフラが足りないが、徐々に整いつつある」

 アジア経営者連合会の会員企業はベンチャー企業を中心に約600社。さまざまな業種で構成され、そのうち約8割が現地への事業所開設を含めて、何らかの形態でアジア各国とのビジネスに関わっているという。

「以前は製造業をはじめ大手企業を中心にアジア進出が行なわれていたが、いまでは小規模な飲食業やサービス業、ITなどありとあらゆる業種が進出し、若い経営者もどんどんアジアでビジネスを展開している」

2.すべてではないが、アジアにないものが日本にあり、日本にないものがアジアにある

 澤田氏がそう語るように、これまでは内需型だった業種もアジアに進出しはじめた。たとえば同連合会の会員企業の1社、発毛・育毛サロンを国内60店舗展開するバイオテック(名古屋市中区)は、2013年7月に初の海外店舗をシンガポールに出店した。発毛・育毛ニーズは各国に共通して存在すると見込んで、シンガポールを拠点に周辺諸国への展開も構想中だ。

 所得水準が上がれば美容対策や健康増進の商品・サービスへの需要も喚起される。インドネシアやタイの富裕層の間では、トレーサビリティのしっかしりした日本製の漢方薬や健康食品が人気を集めているという。バイオテックはこの流れに乗ろうとしているのだ。

 メイド・イン・ジャパンへの信頼性は相変わらず高いが、アジア諸国がメイド・イン・ジャパンに接点を持ち得る水準に発展したことも、需要を呼び起こす原動力になっている。澤田氏は部品を例に挙げる。

「いままでは低価格という理由で中国製や韓国製の部品が流行っていたが、1年から3年で交換しなければならないのに対して、日本製の部品なら10年もつので多少高くても日本製を選ぶ。いまがちょうど、その時期になった。アジア諸国で、日本の技術やサービスが必要とされるようになってきたのだ」

 アジア諸国と日本はビジネスのタイミングが合うようになり、いわば求め合うような関係になった。経営資源をヒト、モノ、カネに分類した場合、どんな求め合い方が考えられるのか。

 アジアのなかでも、とりわけASEANは人口が増え、ヒトがいる。一方、日本には高い技術やサービスを含むモノがあり、国家財政は悪化しているものの、依然として相応の資金がある。

「つまり、すべてではないが、アジアにないものが日本にあり、日本にないものがアジアにある。これがいまの状況で、両者がマッチングすれば、アジア全体の成長と発展につながっていくのではないだろうか」

3.アジアといっても国によって文化も成熟度も違う

 しかし、アジアのなかでも中国は他の諸国と位置づけが異なってくる。従来に比べれば進出先としての利点が少なくなりつつあるのが現状だ。中国のビジネス環境への評価は、それでもさまざまに提示されているが、澤田氏はどう評価しているのだろうか。

 「ここに来て賃金が上がってきたし、労働力の供給も十分でなくなってきた。進出先としては難しくなってきたのではないだろうか。以前は国内の地方が人材の供給元だったが、いまでは供給が不足するようになってきている。

 いまの中国は工場の進出先というよりも、大きな消費地として見たほうがよいと思う」

 当然、著しい発展過程にあるとはいえ、中国と他の諸国に大きな差異があるように、ASEAN諸国の間にもビジネスの成否を左右する差異が存在することは広く知られている。

 「アジアへの進出でまず注意しなければならないのは、国によって文化が違うことだ。ミャンマーは仏教国で親日度が高いとか。それから国によって成熟度も違う。例えばシンガポールとミャンマーでは成熟度がまったく違うし、タイとカンボジアを比べてもまったく違う」

 それゆえに「ミャンマーやカンボジアでのビジネスや進出形態は、シンガポールやタイへの進出とは違ってくるはずで、文化と成熟度を見すえなければならない」のだが、文化や成熟度はいわば皮膚感覚で理解するようなもので、現地でのビジネス経験を積み重ねないと的確な理解には至らないだろう。

 それだけに、既に基礎知識としては知られ尽くしているが、現地のパートナー選定が成否を決する。パートナー候補に現れた企業や人物と関わってよいのか、避けたほうがよいのか。それ以前に、パートナー候補の仲介者に全幅の信頼を置けるのか。

 澤田氏は「『人物を見ればわかる』と言う経営者もいるが、現実はそれほど単純ではない。現地を訪問して相手のバックグラウンドなどを詳細に調べることが必要だ」と指摘する。  

 たとえ親日的であろうと、いくら法体系が整備されていようと、海外はあくまで日本ではないという現実を十分に認識しておきたい。

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